「AI×経済成長時代」の人的資本経営 Vol.5 「成長戦略の最大の敵は自社の人事評価制度だった」

更新日: 2026-09-14

 

第5回目となるアジャイルHR代表、松丘啓司によるコラム。自社の人事評価制度は挑戦を後押ししているでしょうか?組織を「統制と管理」のOSから「価値創造と学習」のOSに書き換えるために必要なこととは?

 

 

多くの企業が中長期の成長戦略を掲げています。しかし、その戦略を実行する現場では、いまだにMBO(目標管理制度)が幅を利かせています。この組み合わせは、実はかなり危険です。成長戦略とMBOは、根本のところで相いれないからです。

 

 

「達成率100%」がなぜ挑戦を消すのか

 

MBOは、限られたパイを奪い合うゼロサム時代(デフレ時代)の産物です。目標達成率を賞与に直結させることで、確実な予実管理を実現する。その時代には理にかなった制度ではありました。

 

しかし今、企業はプラスサムへの非連続な成長を目指しています。評価と報酬が達成率に連動している限り、従業員は失敗回避の心理から、確実に達成できる現実的な目標しか立てなくなります。これは怠慢ではなく、制度が引き起こす合理的な行動です。経営が「リスクを取れ」と号令をかけても、現場は評価制度によって「確実にやれ」と命じられ続けているのです。成長戦略が描く未踏領域への挑戦と、MBOが要求する現実的な予実管理は、そもそも両立し得ない設計思想の上にあります。

 

 

 

統制型から支援型へ、組織のOSを書き換える

 

必要なのは、組織を「統制と管理」のOSから「価値創造と学習」のOSへと書き換えることです。この転換を、目標・評価・運用の3つの側面から解説します。

 

 

① 目標:評価・報酬から分離する

たとえばOKRを導入しても、達成率が裏で報酬に紐づいたままでは「MBOの看板の掛け替え」に終わります。まず着手すべきは、達成率を評価から切り離すことです。目標を「賞与を決める基準」から「戦略実行の羅針盤」に再定義し、60〜70%達成で成功とみなすストレッチ目標を正式に許容する。評価のダウンサイドリスクを取り除いてはじめて、従業員は未達を恐れず野心的な目標を掲げられるのです。

 

 

② 評価:「戦略実行ドライバー」で貢献度を測る

従来の評価は「能力発揮の再現性」を重視し、「非連続な成長」を生む行動に正しく焦点が当てられてきませんでした。そこで評価軸を、個人の行動が成長戦略をどれだけ前進させたかを問う「戦略実行ドライバー」に置き換えることを提案します。焦点を「いかに能力があるか」から「いかに戦略を動かしたか」に変えることで、現場の意識は自然と戦略実行に向かうようになります。

 

 

③ 運用:フィードバックループを回す

目標と評価を書き換えても、期末に振り返って来期に反映するだけのPDCAでは変化のスピードに追いつけません。フィードバックを「過去の反省」ではなく「未来に向けた学習情報」として再定義し、現場から上がる一次情報を経営が吸い上げて戦略の軌道修正に生かすボトムアップと、経営の戦略文脈を現場に明確に伝えるトップダウンを、高頻度で循環させる仕組みが求められます。OKRと1on1を組み合わせて、全社的なフィードバックループを回転させるための情報インフラが必要とされます。

 

 

 

3つの転換をワンセットで進める

 

目標・評価・運用は、どれか一つだけを変えても機能しません。3つが揃ってはじめて、「未達を恐れず挑戦し、その挑戦を正しく評価し、その経験を次の挑戦に生かす」という循環が生まれます。制度の一部を手直しするのではなく、目標・評価・運用の全体を、統制の論理から支援の論理へとワンセットで組み替える必要があります。

 

自社の評価制度は、挑戦を後押ししているでしょうか。それとも密かにブレーキを踏ませてはいないでしょうか。