「AI×経済成長時代」の人的資本経営 Vol.3~「やらされ目標」から「湧き上がる目標」へ ― OKRで積極的な意欲を引き出す方法~

更新日: 2026-08-25

 

アジャイルHR代表、松丘啓司による新コラム連載。第3回目のコラムでは、OKRの本来の効果を最大限に引き出すために必要なポイントを解説します。

 

 

OKRがワークエンゲージメントを生み出す装置になる

 

「ワークエンゲージメント」とは、働く人が活き活きと力を発揮している状態を指します。活力・熱意・没頭の三つが揃った、いわば「積極的な意欲」に満ちた状態のことです。

 

このワークエンゲージメントは、多くの職場において、「環境や制度を整えた結果として、事後的に得られるもの」として扱われがちです。働きやすい制度を整え、褒めて、権限を与えるといった外部からの動機づけは大切ですが、積極的な意欲が本人の内側から自然に湧き上がる状態をつくるには、それだけでは十分ではありません。

 

多くの企業でOKRが、「高いノルマの押し付け」や管理ツールに変質してしまうのも、根は同じです。目標という「外から与えられる基準」と、社員一人ひとりの「内側にある動機」とのつながりが表面的で弱くなってしまっているのです。

 

目標を「会社から降ってきたもの」と捉えている限り、未達への恐怖や不安が先に立ち、積極的な意欲は減少していきます。 逆に言えば、OKRの仕組みそのものに「意識を前向きに方向づける仕掛け」を組み込めれば、OKRはワークエンゲージメント(=積極的な意欲)を社員自身が生み出し続ける装置になり得ます。

 

 

 

目標は「予測」ではなく「歓喜」から生まれる

 

一般的な目標設定が意欲につながらないのは、Objectiveが「現状の延長線上にある予測」や「義務としての到達点」の域を出ないからです。

 

重要なのは、Objectiveを「思い描いただけで自然とワクワクする理想の姿」として定義することです。たとえば、目標設定のガイドラインとして、「達成されたとき、自分やお客様はどんな喜びの声を上げているでしょうか。そのシーンを表現してください」という項目を必須にする、といった工夫が考えられます。

 

出発点を「今ある課題」ではなく「最高の理想」に置くことで、視点を未来に移すのです。

 

 

 

「〜したい」ではなく「〜している」と言い切る

 

もう一つの工夫は表現方法にあります。

 

「〜を目指す」「〜したい」という願望形は、裏を返せば「今はまだ実現していない」という欠乏感を強調してしまいます。そのため、文末をすべて「〜している(現在進行形)」、または「すでに達成し最高の状態にある(現在完了形)」という、実現済みの事実として記述するルールを設けます。

 

弱い例:「新規事業を立ち上げて軌道に乗せたい」

強い例:「新規サービスは顧客の生産性を劇的に変えており、チームは日々感謝の言葉と熱気に満ちている」

 

すでに実現したかのような言葉で状態を固定し、その情景をありありと思い描かせることで、理想を現実にする方へ、意識は自然にエネルギーを集中させ始めます。

 

 

 

上司自身が最高の理想を描けているか

 

この仕掛けを機能させる大前提として、上司自身が「歓喜を伴う最高の理想」を自分の言葉で描けている必要があります。

 

上司が心の底では目標を「義務」としか捉えておらず、不安を抱えたまま部下に理想を語らせようとしても、その姿勢は言葉の端々から伝わってしまいます。 理想を描く力は、教えるものではなく伝染するものです。

 

上司自身が自分のObjectiveを歓喜とともに描き、実現済みの確定文で語れているとき、初めて部下に対しても説得力を持って同じ問いを投げかけられます。OKR運用の第一歩は、上司自身が理想を言語化するところから始めるべきです。

 

 

 

上司の役割は「環境調整者」から「意識づくりの伴走者」へ

 

部下の意欲が落ちたときに、業務量の調整や称賛、権限移譲といった「外側の条件」だけを操作しても、それだけでは足りません。

 

必要なのは、上司が「環境を整える人」から「部下と前向きな捉え方を一緒に創造する伴走者」へと役割を広げることです。困難な状況の時ほど、「この経験から何が得られるか」と部下と前向きに言語化する対話を重ねることで、環境に左右されず自ら活力を生み出す力を育むことが求められます。

 

歓喜を伴う理想の設定、実現済みとして言い切る言葉の力、上司自身が理想を描いていること、そして意識面での伴走。これらが揃ったとき、OKRは社員一人ひとりの積極的な意欲を内側から生み出し続ける装置へと育っていきます。