「AI×経済成長時代」の人的資本経営 Vol.6 「なぜ1on1をやってもエンゲージメントが上がらないのか?」

更新日: 2026-10-14

 

 

第6回目となるアジャイルHR代表、松丘啓司によるコラム。1on1を導入して対話の機会を増やしても、エンゲージメントが向上しないのはなぜか?本質的な課題と解決策を考察します。

 

 

 

多くの企業が「支援型マネジメント」を掲げて1on1を導入しています。しかし、傾聴やフィードバックのスキルを駆使して定期的に対話しているにもかかわらず、「メンバーのエンゲージメントが上がらない」「対話が形骸化している」と悩むマネジャーは少なくありません。

 

なぜ1on1を行ってもエンゲージメントが向上しないのか。その本質的な原因は、対話の「テクニック(Doing)」ではなく、マネジャー自身の「心の状態(Being)」にあるのではないでしょうか。

 

 

 

原因1:「条件付き承認」から脱せられないMBO的マネジメント

 

多くの1on1では、「支援」をうたいながらも、根底の評価軸は「業績が良ければ肯定し、失敗すれば課題を指摘する」という従来のMBO的な価値基準のままになってしまっています。

 

このような成果に依存した肯定は、「条件付きの承認」です。メンバーは条件付きで認められていると感じる限り、失敗への恐怖や不安から逃れられず、防衛的な心理状態に陥ってしまいます。その結果、高い目標に直面して挫折したりすると、メンバーの自己肯定感は容易に希薄化し、エンゲージメントが低下してしまうのです。

 

 

 

原因2:無意識に潜む「消極的なマインドセット」の放置

 

エンゲージメントを支えるエネルギーの源泉は、個人の内的動機(充実感ややりがいを高める内なるモチベーションの源泉)にあります。しかし、情報を解釈する無意識のフィルターであるメンバーの「マインドセット」が消極的(リスク回避的、防衛的)な状態のままであれば、内的動機のエネルギーは「不安」や「自己防衛」の行動へと変換されてしまいます。

 

メンバーの内面にあるこの消極フィルターを放置したまま表層的な行動や目標だけを操作しようとしても、内なるエネルギーが「活力」や「熱意」に昇華されません。

 

 

 

原因3:偽りの心理的安全性と、上司自身の「不安」の伝播

 

マネジャー自身が業績やプレッシャー(外的要因)に心を奪われて「恐れや不安」を抱えたまま、表層的なスキルだけで心理的安全性を醸成しようとすると破綻します。その不安は非言語情報として伝播し、部下の防衛本能を刺激し続けるからです。上司自身が心理的安全性を感じていないのに、メンバーの心理的安全性を高めようとしてもそもそも無理があります。

 

 

 

解決策:事象と存在価値の分離

 

これらの課題を解決するためには、マネジャー自身の「消極的なマインドセット」を「積極的なマインドセット」へと転換し、マネジャーが心理的安全性の発信源となることが必要です。そのために、たとえマネジャー自身が不安や恐れを感じていたとしても、1on1の場ではメンバーに対して「無条件の承認」を行うことを継続します。

 

無条件の承認とは、メンバーの成果やスキルと「存在価値」を切り離し、その人らしい存在を認めて受け容れることです。その人らしさに良し悪しはなく、ただ内的動機や価値観が異なるだけなので、無心にメンバーの内面を理解して承認します。

 

消極的なマインドセットは、外的な事象に心が引きずられている状態から生まれますが、メンバーへの承認を続けることで、マネジャー自身が事象と存在価値を切り離して考えられるようになっていきます。マネジャーが、「事象は事象に過ぎず、自分の存在価値を脅かすものではない」という境地に至ることができれば、1on1の形骸化から脱することができるでしょう。

 

皆さんの会社のマネジャーは、心理的安全性の発信源になっているでしょうか?