【対談:1on1マネジメント】フィードバック:マネジャーの成長支援

更新日: 2023-09-22

アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。

 

モチベーションと上司の役割

 

夛田: メンバーのモチベーションについて、マネジャーの皆さんはどのように捉えていらっしゃいますでしょうか?

モチベーションは自分であげるものだと考えている方もいらっしゃれば、マネジャーが支えてあげるものだと考えていらっしゃる方もいるかもしれません。

 

松丘さん、一般的には前者の、マネジャーではなく自分でモチベーションをあげるものだと思っている方に関して、どのように思いますか?

 

松丘:古いタイプの管理者に多いですよね。

 

夛田:昔はそういう考え方だったということでしょうか?

 

松丘:モチベーションなんて自分で上げるものだ、という考えを持った方は、昔は結構いたかと思います。実際問題として、モチベーションは自分でもコントロールしないといけない部分もありますが、周囲にすごく影響を受けるものです。

 

モチベーションが下がる時の多くは外的要因だと言われています。組織が変わったとか、あるいは今までやったことのない知らない仕事をやらなければいけないとか、お客様からクレームがきた、このような外的要因に左右されてしまいますが、それはある程度仕方ない部分があります。

 

外的要因の中で一番大きな要素というのは、だいたい会社の中では上司です。上司次第の部分が多いと思います。

いろんな研究結果でも明らかになっていますが、人のモチベーションはやはり上司をはじめとする周囲からの動機付けに非常に依存しています。

 

ですから、その周囲がどういう支援をするかということによって、モチベーションが高まる。それが成果にもつながる。というような因果関係もあるので、自分で上げるものだと言うマネジャーは、マネジャーとしての役割を果たしていないのに近いかなと思います。

 

夛田:マネジャー自身のモチベーションはどうでしょうか。これももちろんマネジャー自身が自分自身で上げると考えることもあるでしょうが、メンバーにも支えてもらうと考えてもよいということでしょうか?

 

松丘:支えてくれるメンバーがいればよいのですが、支えてほしいと言ってもなかなか難しそうですよね。やはり組織の上になればなるほど、当然そのマネジャーも、その上司と1on1はすると思いますが、だんだん自分で自分の内的な動機を自分でコントロールするということが、より求められてきます。

 

夛田:自分で自分をコントロールするというのはすごく難しいと思いますが、マネジャーの皆さんは、時間がない中でも自身を内省するという時間をもって気づきを得る、また、自分自身ってどんな人なんだろうといったことを内省するということを検討してみてはいかがかな、というふうに感じました。

 

マネジャーの振り返り:経験学習

 

夛田: 「内省」について話をしましたが、1on1が終わった後、メンバーは気づきを記録に残すということをされている方が多いかと思います。マネジャーのみなさんはどうされていますでしょうか?

 

松丘:基本的にマネジメント力というのは経験学習によって高まっていきますから、やりっぱなしになると、経験学習の機会が減ってしまいますね。

 

夛田:1on1をやって終わりということではなく、振り返る時間も大事ということですよね。

 

松丘:そうです。1on1の場というのはそのメンバーにとっての時間というのが第一になりますが、実はマネジャー自身が経験学習をする場ということも言えるので、振り返ることは大切です。

 

恐らく毎回の1on1でマネジャー自身も色々気づきを得ていると思います。いろいろと気づいているはずなのですが、それを一度自分の中で振り返ってみるということをしないと、忘れていきます。

「あれ?何かに気づいた気がするんだけどなんだっけ?」というように、ちょっとしたことで構いません。「あの時、ちょっと自分のことを話しすぎたな」でもいいですし、「あれ?このメンバーにはこういう一面があったんだ」ということがキャッチできたといったことでもいいですし、どんなことでも構いません。

 

夛田:マネジャーもそれは何かメモや記録を取っておいた方が良いということでしょうか?

 

松丘:それに越したことはないと思います。

ただマネジャーがそれを必ず記録を取らないといけないというよりも、まずはやはり振り返ってみる。自分が何に気づいたのかということを、ちゃんと自分の脳裏に焼き付ける。そういう習慣があればよいかなと思います。

 

夛田:そのような習慣をつけるのもマネジャー自身の成長に役に立つのではないかと感じました。

 

1on1から始めよう:マネジャーの成長

 

夛田: 1on1を実施する際に、マネジャーの方々からマネジメントの経験やスキルが乏しいが、1on1を行なってよいのかというような質問がよくあります。松丘さん、この辺りいかがでしょうか?

 

松丘:よく言われますよね。うちのマネジャーはマネジメントスキルが足りないから1on1なんてできないよというふうに言われたりもしますが、ではそのマネジメントスキルを高めるために何かをしているのかというと、とりたてて何かをやっているわけでもありません。そうすると、いつまで経っても1on1を導入できないという話になりますよね。

 

夛田:では、特にスキルの問題ではなく1on1に取り組むこと自体が大事になってくるのでしょうか?

 

松丘:最初からマネジメントスキルが高い人というのはほとんどいないわけです。マネジメントスキルこそ、やはり経験をすることによってのみ高められるものです。そのため、1on1というのはマネジャーがマネジメントスキルを高める絶好の機会ということになります。

 

メンバーからすると1on1をする上司は一人だけですが、上司側からするとメンバーは何人もいることになります。

 

したがって、メンバーよりマネジャーのほうが、1on1の経験をたくさんすることができます。経験する機会がたくさんあるので、最初はそんなに上手にはできないと思いますけれども、やっていくうちにもおのずと力がついていくというようなところがあります。

 

また、マネジャーがマネジメントスキルを学んでいくにしたがって、1on1も効果的になっていくという相乗効果が出てくると思います。もちろん、1on1を始めるにあたってのマネジャーに対する研修は必要ですが。

 

夛田:ニワトリと卵的な話に近いのかなと思って聞いていました。まずはそういう意味では躊躇せずに1on1を実施してみる。その経験の中で、マネジメントスキルを上げていく。そのようなイメージで取り組んでいただけるのではいいのかなというふうに思いました。

 

成長の鍵:ポジティブフィードバック

 

夛田:フィードバックに関するお悩みを受けることもよくあります。

ポジティブなフィードバックはしやすいが、ネガティブな事は伝えづらい、あるいは伝えてよいのかがわからないというようなお悩みをお持ちのマネジャーの方も多いのではないでしょうか。

 

フィードバックの種類には大きく分けると2つあります。良いことを伝えるポジティブなフィードバック。もう1つは改善課題を伝えるネガティブなフィードバックです。

松丘さん、どちらが大事でしょうか?

 

松丘:ポジティブフィードバックの方がより大事ですね。

 

ポジティブフィードバック 3に対してネガティブフィードバック1などとも言われますが、フィードバックとは本人の成長やパフォーマンスの向上のために行うことなので、本人の強みをより発揮できたり、その人の良い状態、すごく充実感を感じている状態を持続できたりすることが重要となります。フィードバックによって本人がもっと頑張れるようになるわけなので、ポジティブフィードバックは重要です。

 

夛田:ポジティプフィードバッグはアドバイスとは違うものでしょうか?

 

松丘:アドバイスというのは、上司の考えやアイデアを伝えたり、教えたりすることですよね。フィードバックというはメンバー側の行動に対して、そこはすごく良かったねと、上司が観察して感じたことを伝えることです。最初にまずメンバー側の行動の観察があります。

 

夛田:ポジティブなフィードバックをされてきた経験のあるマネジャーは少ないのではないかと思うので、その経験がない中で、自分がフィードバックすることを難しく感じている方も多いと思いますが、これはもう経験は練習といいますか、それを積むしかないのでしょうか。

 

松丘:スキルというよりも、どれだけその人の良いところを見ることができるかですよね。マネジャー側の損得や良し悪しということではなくて、相手のいいところをちゃんと見つけてそれを言葉にして示す、ということです。そういう視点や姿勢があれば、後はやってみることの積み重ねではないかと思います。

 

夛田:そうですね。皆さんは常々、メンバーの方々にどのような視点で接していらっしゃいますでしょうか?

 

例えばメンバーの名前を全員書いてみて、その方のよいところを順に挙げた時になかなかペンが進まない方は、普段、そういった視点で見ることがもしかしたら少し足りていないのかもしれません。

ぜひご自身がどのような視点で見ているか、そのあたりも振り返ってみてほしいなと思いました。

 

共有価値観:フィードバックの前提条件

 

夛田:1on1の際にネガティブなフィードバックをする必要はそもそもありますでしょうか?

 

松丘:フィードバックというのはある行動を強化させる、あるいは逆にある行動を抑制するものです。ポジティブなフィードバックというのはどちらかというと望ましい行動をより強化する効果があります。

 

ネガティブなフィードバックは望ましくない行動を抑制するという効果があるので、それが求められる時には必要になります。

 

ただ、前提として、最初に何が望ましくて何が望ましくないかということが明確になっていなければなりません。

 

例えば、「うちのチームではこういうことを大切にする」というチームの価値観のようなものがあったときに、それに反するのは望ましくありませんが、どういう行動を大切にするのかといったことが最初に共有されてないと、突然それはダメだと言われても困ってしまいますよね。

 

夛田:そうですね。チームの方針やチームとして大事にしているものをしっかり共有するような時間・機会というのは、最初に、あるいはメンバーの入れ替わり時にしっかり行ったほうがよいということですね。

 

松丘:ネガティブフィードバックに近いものの少し異なるものとして、改善点を指摘するフィードバックがあります。そこはもっとこうした方がよいなどと伝えたりすることですが、これはフィードバックというよりも、コーチング的なアプローチの方がよい可能性があります。

 

例えば、何かがうまくいかなかった時に、「ダメじゃないか」ということを言っても、何が改善課題なのか本人はわからないということがありますので、「あの時こうしてこうなったよね」「どうしてだと思う?」といった感じで本人に考えさせる、あるいは、考えることを手伝うアプローチ方が必要かなと思います

 

夛田:何かダメだった場合に、ああしろ、こうしろではなく、そこに本人も気づきを得て並走していくようなイメージのコーチングで、フィードバックの機会を使っていくということですね。

 

フィードバックと一言で言っても、いろいろなやり方がありますので、様々なことを試し、自分が行ったフィードバックを振り返るようなこともマネジャーのみなさんにとっては大切ではないかなと思いました。