【対談:1on1マネジメント】変革の時代:ウォーターフォールから自律へ
アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。
パフォーマンス向上の鍵:楽しみ・意義・可能性
夛田:今日はパフォーマンスを向上させるために必要なことについて伺いたいと思います。パフォーマンスを向上させることはどの企業も望まれていることかと思いますが、このポイントについてご紹介いただけますか?
松丘: パフォーマンスの向上というのは仕事の成果や組織の業績を高めるということですよね。そのためには、単に働きやすさだけではなくて一人ひとりが働きがいを感じることが大切になります。その働きがいとパフォーマンスの間に割と明確な因果関係があるということがわかっているからです。では、働きがいとはいったい何なのかということですが、それを調査したトータルモチベーション指数というコンセプトがあり、それによるとパフォーマンスの高い組織のメンバーは3つの動機を強く持って仕事をしているとのことです。
その3つは何かというと、1つ目は “楽しみ”。仕事が楽しいということです。どういうことかというと、スポーツやゲーム、何でもそうですが、試行錯誤をして上達するとか、トライアンドエラーを続けて達成するとか、そういった成長実感や達成感を得られ続けることです。これらの充実感は同じことばかりやり続けていても得られないですよね。チャレンジするとか、実験と検証を繰り返すとか、そういった仕事の仕方をしていくことが重要です。
2つ目は、自分がやっている仕事に”意義”を感じられるかどうかです。仕事の結果が社会に役立っているとか、お客様に非常に喜ばれているとか、やっている事に意義があると強く感じられるので頑張れるということです。当然、どんな仕事にも意義があり、意義があるからお客様だっているわけですが、普段、仕事の意義を考えることを忘れてしまいやすいので、上司との1on1の場では、自分たちの仕事にはこういう意義があるということを確認していくことが大事ですね。
3つ目は、“可能性”です。この仕事を通じて自分の可能性が広がっていると感じられるということです。例えば、今、やっていることは将来のキャリアビジョンに繋がっているんだと感じられると、仕事も頑張れるということです。ただ働きがいというと抽象的ですけれども、こういう楽しみ、意義、可能性といった要素に分解すると、要するに何を高めていくとよいかがわかります。マネージャーの方はチームのパフォーマンスを上げるには、チームメンバーがこういう3つの動機を強く感じられるように働きかけていく、メンバーに関わっていくということが大切だと思います。
夛田:話を伺うととても理解ができるのですが、会社の風土や文化的なところでいうと、仕事って楽しいというものではないという感覚があります。意義と言われていましたが、そんな事つべこべ言わずにとにかくやりなさいと言われたり、言われなくてもそんな雰囲気が組織の中にある企業も非常に多かったりすると思うのですが、そういったところもやはり変えていかなければいけないというところですね。
松丘:そうですね。同じその調査の中で、パフォーマンスを下げる動機は何なのかというと、抑圧的、例えばこれやらないと叱られるとか、無理やり強制的にやらされるなどという動機付けはむしろパフォーマンスを下げると言われています。
夛田:その辺りをマネージャーの方々が理解をして、どうするとパフォーマンスを上げていけるのかという工夫をしていくことが大切ですね。
営業力向上の核心:組織マネジメント
夛田:パフォーマンス向上が営業力強化に関連すると考える企業が多いかと思いますがそれについて伺います。そもそも営業力の問題・課題についてどういったものがあるのか、解説をお願いできますか?
松丘:営業力強化については、いろんな会社が過去からたくさん取り組んできていて、ITを使って科学的な営業を行ったり、トレーニングを行ってきたり、様々やって来られていると思いますが、未だに営業部門に伺って何が課題ですか?と聞くと、だいたい同じようなことを言われます。
添付のスライドにありますように、例えば、
- うちは提案営業力が弱い。もっとそのお客様の課題や世の中のトレンドなどに基づいてシナリオ作ってお客様に提案していてほしい
- 同じようなことを繰り返しているだけで新しい取り組みが少ない。本当はもっと自分からこれやりたいと言ってきてほしいが、そういう営業担当者がほとんどいない
- みんな自分の仕事をしているだけで情報共有ができてない、部署を超えて他の営業の人たちと連携して活動することがあまりない。個人商店化という言葉も出てきます
- また、コミットメントが足りない、困難があってもやり抜く気概が希薄になっている
といった声は、業種にかかわらず営業部門共通の課題かなと思います。
夛田:これらの問題に対して、皆さんはどういった解決策を実行されているのでしょうか?
松丘:どちらかというと技術的な問題解決策と言えます。提案営業力が弱いのであればそれを高めましょう。例えばパワーポイントスキルを高めるような研修をしましょうとか、新しい取り組みが足りないというのであれば、新規のプロジェクトを開始しましょうとか。情報共有が足りないと言われれば情報共有会みたいなものを、最近でしたらオンラインで定期的にやりましょうとかですね。あるいはコミットメントが足りないのであれば組織的にKPI 管理を徹底しましょうとか。そういう解決策が多いです。
それ自体が必要ないというわけではありませんが、問題は本質的な問題解決になっていないということです。いったいなぜ提案営業力はそんな弱いのか?あるいは、なぜ新しい取り組みをやりたいと営業担当者が言ってこないのか?原因の深堀りがされていません。
夛田:確かにそうですね。スキル研修をこれまでされてきているにもかかわらず、何年もこの悩みが変わらないっていうのは、そこを深掘りできていないということですよね。そうすると添付スライドの左側に書いてある4つの問題点の原因っていうものはどこにあるのでしょうか?
松丘:一言で言うと組織マネジメントの問題だと思います。ITを使った営業の効率化や高度化はずっとやってきましたが、営業における人のマネジメントについては実はあんまり昔から変わっていません。
夛田:では、その組織マネジメントそのものをこれから変えていかないと、今ここに挙がっているような問題はこの先もずっと変わらないということになるのでしょうか?
松丘:そうですね。なぜ提案営業力が弱いのかと、あまり営業担当者に考えさせてこなかったという原因が挙げられます。上からあれしなさい、これしなさいというように、指示された通りに動くといったことを長年続けてきた結果、あまり考える訓練ができていないケースが少なくありません。
あるいは新しい取り組みについても、もしかするとこれまでに、上司に対してこういうことをやりたいですと言ったときに、それよりこちらが先だろうだとか、そんなことやっている場合じゃないだろうと否定された経験から、上司に言っても無駄だという諦めみたいものが生まれてしまったのかもしれません。
情報共有にしても、基本的に自分の営業成績や自部署の営業成績が最優先となるので、他の人のことや、ましてや他部署のことにはあまり関心がないし、優先度は低くなりますよね。だからそもそも情報共有しようとかっていう気にもならないわけです。
コミットメントは、自分はやればできるっていうような自己肯定感、自分を信じる力が必要なわけですが、どちらかというとお前はダメだ、なんでこんなことができないんだ、といったことをずっと言われ続けている。あまり人として見てもらえてないみたいなものがあって、そうすると自己肯定感は育ってこないですよね。だから、困難なことがあったら、どうせできないからやめとこうという考えになってしまう。
夛田:そういったことが問題の原因だということに気付かれているマネージャーの方々は少ないのでしょうか?
松丘:いるにはいると思いますね。本人に考えさせなきゃとか、やりたいという気持ちを動機づけていくとか、自信を持たせることが必要だとかいうことを考えているマネージャーもいますが、それが組織的な取り組みになっているのはそれほど多くはないかなと思います。
変化の必然性:ウォーターフォールから自律型へ
夛田:組織マネジメントの変革の必要性についてお伝えしましたが、新たな組織マネジメント変革ついて、より詳しく松丘さんに伺いたいと思います。
営業力強化、営業力がなかなか上がらない原因として組織マネジメントに問題があるというお話がありましたが、これからどのようにそれを変革していかなければならないのでしょうか?
松丘:ほとんどの会社の営業部門、それ以外の部門もですが、マネジメントの考え方は非常にウォーターフォール型ですね。滝のように上から下へ下ろす。上意下達というやり方です。
夛田:社長がその下の役員に伝え、役員が部長に伝え、部長から課長にというようなイメージでしょうか?
松丘:スライドのように、全社の目標を部門の目標、個人の目標へと、上から割り振っていき、その目標の達成度を進捗管理して、達成したら高い評価をあげますというような動機づけですね。これまでずっとそのようにやってきて、それなりの成果があったから継続されてきたのだと思いますが、新型コロナウイルスの問題が発生して以来、このモデルに限界を感じている営業部門も増えたと思いますね。
夛田:皆さんがそう感じられるのはなぜでしょうか?
松丘:このウォーターフォール型の目標管理というのは、ある程度ビジネスモデルが確立していて、先の見通しが立ったから成り立ちました。今までの延長線上でこれぐらいは行けるだろうというような見通しが立つから機能するのであって、そもそも今後どうなるかわからないといった時に、上から目標を落としてやれと言われたところで、何をやってよいかわからないので機能しなくなります。また、そういう状況の変化に応じて、今までやっていないようなチャレンジや試行錯誤をする必要がありますが、誰がそれを考えるのかという話ですよね。
これまでは、上の人がある程度の答えを持っていたり、何をすればよいかという見当がついていたりして、あれをやったか?などということを言えたわけですが、不確実性が高くなると、上司も何をやってよいのかわからない。つまりその上司自身も考えることになりますが、その考える作業がこの方法ですと全部上司に集中してしまいます。
そうすると上司もそんなにたくさんのことを考えられないですし、メンバーは上司が考えて決めて言ってくれないと動けません、という状態で待っていることになり、上司がボトルネックになってしまいます。それだと動かないので、キーワードは「自律」ですよね。一人ひとりが自分で考えて、行動する必要があるわけです。
営業にしたってこうしてオンラインでやっているわけですから、いままでやったことがないことにチャレンジしないといけないわけです。だから自分で考えて、やったことはないからどういう結果になるかやってみないとわからないけど、多分こうなるのではないかという仮説を立ててチャレンジしてみて、うまくいかなかった時にそこから学ぶ。あるいは一人ひとりが自分で考えて答えを出そうといっても、やっぱり煮詰まってしまうので、他の人と相談したり協力したり連携したり、というコラボレーションを増やすことも大事になってきます。
その前提として、この目標を達成したら評価してあげますと言われても、結局、不確実性が高いのでなかなか動機付けにはならないですよね。それよりも、自分が何をやりたいのか、一人ひとりが自分のやりたいことや目指したい姿などをイメージして目標設定していくというようなことがないと、頑張り続けることができないかと思います。
したがって、マネジメントのやり方も、一人ひとりに考えさせて、あるいは何をしたいのかと言う意欲を引き出して、やったことがないことでもチャレンジしようということを促して、結果を一緒に振り返るといったようなマネジメントが必要になります。
夛田:本当にその通りだなあと思う一方で、メンバー側の立場に立って今の話を聞いていると、自分で考えたことをぜひ提案してほしいと言われて提案をしました、不確実性が高くて誰も答えを持っていない中でチャレンジをして、もし失敗した時に評価をされなくなってしまうのではないかという不安がきっと皆さんおありだと思うのですが…そうするとチャレンジも難しくなると思うのですが、評価制度そのものを見直した方がよいのでしょうか。つまり、今までのやった結果に対しての評価っていうことではなく、チャレンジをすることやプロセスを含めた新たな評価制度というものも必要になってくる気がするのですが。
松丘:そうですね。今までのように、予算を達成したから評価するといった方法ではなかなか評価しづらくなってくるということかなと思いますね。
夛田:今まで前年比105%だったから君は Aだよ、Sだよといった評価がこれまで当たり前でしたが、見えないものにチャレンジするということになるとそれが難しくなるなあという印象を受けました。新たなマネジメントの必要性、ウォーターフォールではない自律型を目指すということを、どの組織の皆様もお考えになられたのではないでしょうか。