【対談:1on1マネジメント】目標について
アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。
目標と成果:公開が効果的
夛田: 皆さんの会社は個人の目標を公開されていますか?
一般的には公開をしていない会社のほうが多いのではないかと思いますが、松丘さん、いかがですか?公開していなくても、特に効果は変わらないのでしょうか?
松丘:効果について実験した研究があります。そもそも目標を立てないということと、目標を立てるということでいきますと、目標立てたほうが成果は高まります。
目標を立てたときに、それをちゃんと記録する。こういう目標にしますと書くのと書かないのでは、書いたほうが成果は高まります。
次に、その書いた目標を周囲に公開するかしないかということでいきますと、周囲に公開したほうが高い成果が出ます。さらに、どういう目標立てていますということだけではなく、その進捗状況まで周囲に公開すると、さらに高い成果が得られる、というような実証結果がありますね。
夛田;進捗状況も必要ということですよね。
松丘:そうですね。実際、企業の中で個人目標を周囲に公開している会社というのは非常に少ないですが、隠し持っているのではなく、公開したほうが良い結果が生まれます。
夛田:今、松丘さんは隠し持っているという表現をされていましたが、これまで隠し持っているというか、あまり公開をしてこなかったのには、何か理由があるのでしょうか?
松丘:基本的にそれが評価と結びついていたので、あまりオープンにすべきではないといった考え方があったのかもしれません。
ただ、オープンにすることで、なぜ成果が高まるのかということですよね。
理由の一つは、コミットメントが高まることです。言ったからにはやらなくてはいけないというプレッシャーがあります。
次に、あの人はこういう目標を設定しているということがお互いにわかるので、協力したり、それだったらこういう情報があるよ、といったようなアドバイスをしたり、相互のコミュニケーションも生まれやすくなるのではないでしょうか。
夛田:目標を公開するにあたっては壁といいますか、自分がオープンにしてもいいという気持ち的な部分も大きいかと思いますが、そこでやはり心理的安全性もかなり必要にはなってきますでしょうか?
松丘:そういう心理的安全性というのも大事ですし、目標をオープンにしてしまうと、例えばあの部長はあんなにお給料が高いのにその程度のことしかしていないのか、ということがばれてしまうと言っていた会社もありました。
その時には、ばれたほうがよいのではないですか?それによって目標をもっと高くするか、給料を下げるかのどちらかになります、と答えたことがあります。
夛田:目標を共有していくことで、話し合いや対話が生まれていくのですね。目標を公開することの必要性はとてもよくわかりました。
目標の見直し:環境変化に柔軟に適応
夛田:目標の見直しについても伺っていきたいのですが、皆さんは一度立てた目標を期中に見直すことをしていますか?
なかなか見直すということはせず、そのまま過去を振り返っているということも多いのではないでしょうか。期の途中で見直しを行った場合どのような効果が得られるのでしょうか?
松丘:例えば、環境が大きく変わったのに目標を見直さないと、目標と環境が非常に乖離してしまいますよね。
多田:その環境というのは社内社外かかわらずということでしょうか?
松丘:はい。社外のお客様の状況など外部環境もありますし、社内の方針変更なども含まれます。つまり当初、目標が前提としていた条件が変わってきてしまうということとなります。
夛田:そのとおりですね。
松丘:環境変化に適応していくことは企業にとって非常に重要なので、柔軟に環境適応していくことが必要です。ただ、途中で安易に見直すと、できそうにないから目標を下げるのではないか?別のやり易い目標に変更するのではないか?と思う人が出てくる可能性があるので、そこを危惧していることもあるかもしれませんね。
夛田:目標を見直す頻度や、何を基準に変えたらよいのかというところは、いかがですか?
松丘:個人の目標というのは、所属する組織の目標に貢献するものであり、その組織の目標というのは、会社全体の目標に貢献するものなので、全体が柔軟に環境に適応していけるような状態になっていないといけないですね。
個人目標だけ柔軟に変更しても、組織の目標の方は全然変わらないというようなことですと、会社全体としては、うまく運営ができない可能性があります。
夛田:個人の目標だけでなく全社的な目標というものも、環境変化に応じて変更していくということが必要だということでしょうか?
松丘;これまで企業は、年度あるいは今後数年間の事業計画があり、その事業計画をしっかりと達成するという原理で動いていたところがあると思うのですが、もちろんそれは必要ないわけではありませんが、当然、その事業計画自体が柔軟に見直されていくという運営がますます求められてくるようになると思います。
夛田:環境が変わっても最初の目標のままいきます、ということではなく、やはり外部環境に適応したその時々の目標を、きちんと見直す、考えていくということが必要となりますね。
目標設定:個人の主体性と会社の方向性
夛田:目標をたててください、目標をたてましょう、と言われても、目標というのはそもそも会社から、あるいは上の方から下りてくるものだというふうに思っていらっしゃる方もおられるかもしれません。
松丘さん、あらためて伺いますが、目標は上から決めたものをそのまま実行するというものではなく、個人が主体的に、あるいは自分で決めていくということが必要だということなのでしょうか?
松丘:はい。実際、上から目標が下りてくるというような会社は多いと思いますが、会社全体の目標を達成するために、そのようにして割り振って管理していくっていう考え方がこれまでは強かったかなと思います。しかし、その弊害がありますよね。
いちばんの弊害は何かというと、受け身になるということです。上からあれをしなさい、と言われるのをずっと待っている。待ちの姿勢や、言われたことしかやらないという姿勢が強化されてしまいます。
本当はもっとチャレンジをしたり、高い成果を目指したりすることができるのに、これだけやっておけばいいから、それ以上やらないといったような状態を生み出してしまう恐れがありますね。
その一方で、上から与えられた目標が非常に厳しすぎる場合、いわゆるノルマみたいな話ですが、今度はストレスが溜まる、精神的に疲弊してしまうという状態を生んでしまうというリスクもあります。
夛田:その一方で、個人がそれぞれ主体的に目標を立てていくと、バラバラ感といますか、自分勝手にという言い方は語弊がありますが、なかなか会社の目標とはつながっていかないのではないかという懸念をお持ちの方もいらっしゃるかなと思いますが。
松丘:そこは、目標を立てるときの考え方ですね。実際、個人にしても、何を目標にしたいのかと聞かれたら、よくわかりません、何を目標にしたらいいのでしょう、と思う方も多いと思います。基準や方向性を示してくれないとよく分からない。あるいはどの程度のレベル感にすべきか自分では判断がつかないと不安になることはよくあります。
会社における個人の目標というのは、当然、より上位の目標に貢献するものである必要があるので、何を目標にしたいのかと尋ねるよりも、上位の目標がいくつかある中で、それらの上位目標のどれに貢献したいか?と尋ねられた方が、おそらく答えやすいと思います。
夛田:そうですね。
松丘:この目標に貢献したいです、となったときに、ではそれに対してどうやって貢献したいのか?どんな貢献がしたいのか?と尋ねられると、自分だったらこういうことができると思います、というような考え方が引き出されてきます。基本的にそういう考え方で立てていく目標が、OKRです。
夛田:何もない中からか一から作るというわけではなく、ある程度の選択肢の中から自分が何をやりたいのか、何に貢献したいのかという視点で選んでいく方法だと、やりやすいのかなと思いました。
目標達成の秘訣:成功要因の特定
夛田:OKRという言葉が出てきましたが、初めて聞かれた方もいらっしゃるかもしれません。上から降ってくるそのままの目標を言われるがまま実行するのではなく、自分が何に貢献したいのか、そのあたりを考えていく新たな目標設定の方法と言えますね。
この目標の立て方についてお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
松丘さん、目標は具体的な方がやはり効果的なのでしょうか?
松丘:あまり抽象的な目標ですと、何を目指しているのかが非常に曖昧になりますので、よくSMART目標と言われます。
SMARTの SはSpecificということで、具体的と訳されることが多いですけれども、具体的と言われてもよくわからないですよね。
Specificの動詞はSpecifyです。これは何かを特定するということですから、具体的というのは、要するにこれができれば目標が達成されるというような戦略だとか、成功要因が特定されているという意味になります。
夛田:理想的な具体的な目標とは、どういうイメージになるでしょうか?
松丘:いちばん良くないのは、例えば売上目標で、課の目標が5億円、営業担当者が5人いるから1人1億ずつというように、単純に数字を割り振るだけという方法です。
夛田:でも、ありがちですよね。
松丘:あなたの目標は1億円だから達成するために頑張ってというのでは、丸投げで圧力的な目標設定です。
重要なのは、何ができれば課の5億円の目標を達成できるのか、ということです。成功要因は何なのか。新規顧客をもっと増やさなければならないのか、あるいはモノの販売よりももっとサービスの比重を増やす必要があるのか、などです。
そういったような戦略が明確にされることで、では新規顧客をどれくらい開拓すればよいのか?ターゲットはどこなのか?と考えることで具体的になっていきますよね。
さらに、そういうターゲットを開拓するための成功要因は何なのか、ということを考えていくと、もしかするともっと知名度を高めるといったことが必要になってくるかもしれません。では、知名度が高まったことを何によって測定するかと考えていくと具体的に指標につながってきます。
夛田:具体的=数値っていうことではなく、成功要因を特定していくことによって具体的な目標になるというお話でした。