【対談:1on1マネジメント】1on1におけるキャリア開発支援
アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。
自己理解を深める:気づきからキャリアビジョンへ
夛田:1on1の場はキャリア開発支援にもつながる場だと言われていますが、若いメンバーに「あなたのキャリアビジョンは何ですか」という問いを投げても、なかなかわからないといったようなメンバーも多いのではないでしょうか?
松丘:これは若い人だけでなく、マネジャーにも当てはまりますね。キャリアビジョンを教えてと聞いても、すぐには答えられない人は多いと思います。
「自分のビジョンは部長になることです」という人もいるかもしれませんが、漠然と会社員になったのだから部長ぐらいにならないとちょっと格好がつかないな、というのはキャリアビジョンではないですよね。
キャリアビジョンというのは、自分はどうなりたいたいのかということですが、どうなりたいか明確にイメージできている人というのはむしろ少ないので、1on1で一緒に考えていこうということになります。
「どうなりたいのか」ということや、「どういうふうに成長していけるか」というその人ならではの可能性を探っていくとよいと思います。
あるいは、「どういうところに強みがあるのか」。この強みというのは、その人らしさ、その人ならではの考え方や行動、働く動機などを見つけていき、それを伸ばしていくことで成長につながると思います。
夛田:自分で気づかないこと、また、自分がなりたい姿、やりたいことというところまでイメージできないというのは、非常によくあることだと思いますが、このようなメンバーの強みについて、1on1の場でマネジャーからフィードバックをもらうというのは有益でしょうか?
松丘:マネジャーが観察していて、「あれはすごく良かったね」といったようにフィードバックされたときに、「あっ!そういうところがよかったと感じられるんだ」というように本人が気づくということもあります。
また、フィードバックだけではなく、例えばマネジャーから「最近やりがいのあった仕事って何?」といった質問するのもよいでしょう。そのやりがいを感じている時にその人の強みが発揮されているからです。
このように、何か質問されて、考える。そういう中で振り返って気づく、ということもありますから、そういう手助けをしてあげることが大事ですね。
夛田:1on1を通して様々な気づきを得ると思います。この気づきというものが自身の強みの発見にもなり、また自分のキャリアビジョンを描くことへのヒント、あるいはそこへつながることにもなっていくのではないでしょうか。
ぜひ、たくさんの気づきの中からそれらを見つけていっていただきたいと思います。
現在の積み重ねが未来を形成:今日のアクションがキャリアビジョンへつながる
夛田:描いたキャリアビジョンに対してアクションを起こすタイミングには何かポイントがあるのでしょうか?
松丘:3年後あるいは5年後のキャリアビジョンを描いたときに、そこにどういう道筋で行くかということですが、アクションの中には例えば1年がかり、2年がかりのアクションもあれば、もっと短いアクションもあります。どちらについても言えることは、2年後のアクションを今やることはできないということです。何か行動に移すというのは、常に今しかないわけですね。
夛田:今の積み重ねが2年後になるというイメージでしょうか?
松丘:そうです。2年計画だったとしても、行動できるのは今しかないということです。いきなり2年後にワープはできませんし、過去に遡ってもう一度やり直すこともできません。
目の前でやらなくてはいけない仕事もたくさんあると思いますので、そういうことに対するアクションも必要ですが、いちばんよいのは、今のその目の前のアクションが、1年後、2年後につながっている状態になっているということです。
そのためには、会社で立てる目標(OKR)に将来のキャリアビジョンが織り込まれていることが理想です。目標の達成に向けて行動することで、業績の向上にもキャリアビジョンの実現にもどちらにもつながればベストですね。
夛田:皆さんが描いたキャリアビジョン、何年後のものなのかはそれぞれ異なるかと思いますが、そこに到達するためには、この日々の積み重ねがつながった状態で、初めて成り立つものになるということだと思います。
問題の先送りや、アクションを先に送るのではなく、今を大切にする。アクションを起こすのは今だという意識で毎日を過ごしていくと皆さんのキャリアビジョンに近づいていくのではないでしょうか。
キャリアビジョンのためのアクション:強みか弱みか?
夛田:1on1では将来のキャリアビジョンについても話をするとよいということをお伝えしていますが、このビジョンに向けたアクションを考える際に自分の強みと弱みではどちらを中心に考えるとよいのでしょうか?
松丘:アクションプランを考えるときに強みを活かすようなアクションと、弱みを改善するようなアクションの2つがありますが、ついつい弱みを改善するアクションの方に目が行きがちになる人も多いと思います。
夛田:そうですね。できないところや苦手なところを克服しようという真面目な日本人気質もあるかもしれないですね。
松丘:学校でできない問題を何回も繰り返すというのが学習だというように思われているからかもしれません。
ピーター・ドラッカーは、強みは弱みを打ち消すと言っています。弱みをまったく改善しなくていいというわけではないですが、強いところを伸ばした方が、基本的には大きな成果や、成長につながりますよね。
夛田:スポーツ選手もそうですよね。いろいろなスポーツの競技があり、例えばサッカーの得意な人が陸上などの他の競技も全部得意というわけではなく、自分が得意なサッカーを伸ばすということでチャレンジをしている方も多いように、私たちもビジネスにおいて強みを活かした方がよいということですね。
ただ、その自分の強みがなかなかわからない、または自身で気づいていない強みともあるのではないかと思いますが、これを認識するにも1on1は効果的なのでしょうか?
松丘:そうですね。その強みがすごく発揮されているときというのはワークエンゲージメントが高まっているわけです。何かに熱中したり、集中したりすることができるので、おのずとパフォーマンスにつながるわけです。
そのため、1on1の場でも強みが発揮された経験のようなエピソードを聞き、ではそれをもっとやってみようよ、と背中を押してあげたり、より強みが発揮できるように支援をしたりすることはすごく大事かなと思います。
夛田:まずは自分の強みを知るということがとても大切になってくるということですね。みなさん、自分の強みというものどこまで理解されているでしょうか。ぜひ1on1の場でお互いに話題に出してみてもよいのではと感じました。
サポートネットワーク:ビジョン実現の鍵
夛田:キャリアビジョンに向けたアクションについてお話してきましたが、そもそも皆さんは将来のビジョンをどのくらい明確にされているのでしょうか?
ビジョンを明確にすると未来が引き寄せられるなどと言われることがありますが、そのようなことがあり得るのでしょうか?
松丘:ここで言っているビジョンというのは個人のビジョンです。つまり、自分は将来どうなりたいのか、どんな活躍をしたいのかという将来の希望や願望みたいなものですが、自分が活躍できている状態というのは、その人の内的な動機や価値観が活かされている状態ですよね。
自分の価値観に基づいて将来こうなれたらいいなというビジョンを鮮明に描く。将来のことは予測通りになるわけではないのですが、描くことができると、そこに近づきやすくなるわけです。
それ はなぜかというと、そのビジョンというのは今からその数年先までの間のいろいろな選択を繰り返した結果、行き着くからです。
選択をする時に、人は自分にとって大切な方を選びます。
例えば AとBという選択肢があった時に、自分にとって大切にしたい方を選ぶということです。
何が大切かという基準がその人の価値観なので、自分の価値観に従って選択をしていくと、おのずと将来のビジョンにたどり着くということです。
引き寄せられるというのは、どちらかというと自分の軸をしっかりと持ち、それを信念あるいは信条のようにして歩んでいけば、描いた未来にたどり着きますよ、というそんな意味です。
夛田:なるほど。明確になることで軸が見えてくるというようなこともあるでしょうし、もちろん軸がしっかりしていればビジョンも明確になってくるというようなイメージでしょうか。
松丘:そうですね。
夛田:キャリアビジョンを実現するといっても、なかなか一人では難しいなと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ビジョンは一人で実現しなくてはならないのでしょうか?それとも周りの人に協力を得ることを考えてもよいのでしょうか?
松丘:もちろん、大丈夫です。一人でできることというのはなかなかありません。
集団生活を送っている中で、すべて思った通りの状態にたどり着くことは、端から無理なので、上司もそうですが、友達や家族やあるいは会社の先輩など、いろんな方に助けてもらうという発想が大事ですね。
夛田:助けてもらうときは、上司だけではなく、いろいろな人を巻き込んでいってよいのですね。
松丘:巻き込んでいくという側面もあるかもしれませんが、つながりを作っていく中で、助け合うというのはお互い様ですから、自分もいろいろとヘルプしてもらうかわりに、自分からも何かを助けていくことが必要です。
そういうネットワークに支えられていることによって、気づかされることもあれば、何か違った視点が得られたり、アドバイスが得られたりすることもあれば、協力してもらえることもあります。
そういったサポートネットワークを築いていくということが、実はビジョンを実現する上で非常に大切な要素になりますね。孤軍奮闘だとなかなか難しいと思います。
夛田:お互い様という言葉がありましたけれども、昔ながらの 言葉のように聞こえるかもしれませんが、上司もメンバーも一人で気負うことなく、サポートメンバーを作る。サポートネットワークづくり、この辺りをぜひ大切にしながらビジョンを叶えることを考えてみて欲しいと思います。