【対談:1on1マネジメント】OKRと経験学習
アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。
ウォーターフォール型の目標設定の問題点
夛田:今日はマネジメントの変化について伺いたいと思います。松丘さん、以前は上司から目標が与えられて会社が成り立っていたという認識でいますが、もうそうではないということでしょうか?
松丘:未だにそういう会社が大部分を占めていると思いますが、それだとなかなか成果が出づらくなっていると思います。特にイノベーションを起こそうとすると、上からウオーターフォール型、滝のように落ちていくというやり方だとむしろイノベーションの阻害要因になる恐れもあると思います。
夛田:イノベーションの観点からすると、確かにそうなのかなと思うのですが、一方でたとえば1億円という目標に対して2つの部署があったとすると5千万円ずつ、さらに部下が5人いたら1千万円ずつというふうに上から与えた方が上司としては管理が楽という気がするのですが・・。
松丘:管理は楽ですね。ただ、管理しているだけで業績が上がるのでしたらそんなに楽なことはないですよね。極端に言えば誰にでもできます。上から目標を与えると、やはり部下の方は目標が下りてくるのを待ってしまう姿勢になったり、やってみないと結果がわからないようなチャレンジはしなくなったり、安全志向・リスク回避的になってしまいます。あるいは自分の目標の達成を一人ひとりが最優先にしていると横の連携が進まなかったりします。このように待ちの姿勢、リスク回避、連携ができないということはイノベーションにとっては致命的になると思いますね。
夛田:イノベーションのためというのもあると思うのですが、以前の対談で成長という言葉もあったかと思います。自分が届く範囲の目標や、待ちの姿勢だと成長はできないということでしょうか?
松丘:そうですね。同じことを繰り返したり、できることだけをやったりといったように、いつも同じ風景ばかり見ていると、そこからの学習は少ないですよね。同じような経験ばかりしていると学びが少なく惰性的になってしまいます。道を究めるという見方もできるかもしれませんが、やはり成長のためにはチャレンジしていく、やったことがないところに踏み出していくことが大切かなと思っています。
夛田:従来の目標の立て方と異なった立て方をしなければならないということですか?
松丘:与えられるというのではなくて、自分は何をしたいのか、あるいは会社の目標達成に貢献するために自分は何によって貢献できるのか。これをやればいいのではないかと自分で考えることが必要なので、そういった意味では一人ひとりが自分の戦略を立てられるようになるということが求められていますね。
OKRとは何か
夛田: MBO、最初に最近よく耳にするようになったOKRという目標管理についてお話を伺いたいと思います。松丘さん、解説をお願いできますか?
松丘:まずMBOですが、Management by Objectivesの略で、元々はピーター・ドラッカーが言い始めたものです。当時はManagement by Objective and Self-control という言い方もされました。それは自分で目標を設定して自分でコントロールしていくといった、一人ひとりの主体性を重視した考え方でした。それがいつの間にか意味合いが変わってきて、現在ではMBOというと、主体性よりも会社が設定した目標をブレイクダウンして個人に目標を与えて、その進捗状況を管理していくという、ウォーターフォール型の目標管理を指して言われることが多いですね。実際、日本の会社のほとんどがMBO型のやり方をしていると思います。
夛田: OKRとの違いは何になりますか?
松丘:OKRはどちらかというと、元々ドラッカーが言っていた目標管理に近い概念ですね。目標を与えられるというよりも、一人ひとりが自分は何を目標にしたいか、やりたいという内発的な意志を目標に設定していくというところがいちばん大きな違いでしょう。
夛田:セルフコントロールという部分が失われていったということを問題視した目標の立て方がOKRというものですか?
松丘:そうですね。ただ会社の中における目標なので、何でも好き勝手していいというわけでは当然なくて、個人の目標は会社全体や自分の属している組織の目標に貢献するものでないといけないですね。自分は何によって会社の目標に貢献したいかといった繋がりを重視しています。
夛田:あくまでもやりたいという気持ちは大事だが、組織の中でやっていくので組織の目標を意識しながら立てていくことが大切ということですね。
松丘:それによって一人ひとりがやりたい目標を立てているが、会社全体としては一つの方向性にベクトルが合っていくことになります。
夛田:聞きそびれましたが、OKRの略は何になりますか?
松丘:Objectives and Key Resultsです。Objective は目標、何をゴールにしたいのか、何を実現したいかを示したもので、Key Resultsはキーとなる結果ということですが、どういう結果指標を達成すればそのゴールを達成できたといえるかを測定する指標です。OKRはObjectivesとKey Resultsを1つのセットにして目標と定義する、そんなフレームワークです。
夛田:OKRが注目されているのは、MBOの弊害があったからでしょうか?
松丘:そうですね。やはり自律的に考えてチャレンジしていくような働き方が求められています。MBOはどちらかというと自律性というより上からこれやりなさいと命じられるような与え方なので、上が目標を与えてくれないと動けません。現場の環境も変化していますから、その中で自分なりに目標を立ててチャレンジしていくという行動をしていかないと、なかなか成果にはつながらないと思います。
夛田:MBOは期初に目標を立て、期末まで変えづらい部分もあると思うのですが、OKRは期中にも柔軟に変えられるということでしょうか?
松丘:環境が変わったのに目標が変わっていないと、ギャップが生じてしまいますよね。ただ、闇雲に変えていいわけではなく、会社全体あるいはチームがOKRに従って運営されていくことが重要なので、そうすると四半期ごとに見直すなど、一定の運営の枠組みは必要と思います。
夛田: VUCAの時代といわれていますので、今のお話ですとOKRの方がいいのかなと思う反面、従業員数が多い企業などでは上から目標を与える方が、会社としては統率がとれるように思うのですが、MBOとOKRはどちらがいいというものではないのでしょうか?
松丘:OKRは1つの手法ですが、確かに軍隊のように上から統率を取った方がやりやすい組織もあります。ただ、そういうやり方で成果を上げられる業界というのはほとんどなくなってきているのではないでしょうか。一人ひとりが自分で考えて、仮説を立てて行動することが求められていると思います。
自分自身の成長のためのチャレンジ
夛田:OKRについて伺いましたが、OKRの立てる際のポイントの1つとして、ストレッチしたチャレンジ目標を立てるとよいと言われています。このチャレンジについてお話を伺いたいと思います。チャレンジと言っても加減がわからなかったり、難しかったりするイメージがありますが、チャレンジとはいったいどういうことなのでしょうか?
松丘:チャレンジというのは一つには、今まで経験したことがないようなこと、未知の領域に踏み出すということですね。
夛田:未知の領域に踏み出すとは、言葉では簡単ですけどもなかなか心理的なハードルが高く、周りの支援もないと難しいのかな、と想像するのですが。
松丘:そうですね。今までのMBOのやり方ですと、未知の領域に踏み出すリスクを取ることはあまりしなかったですね。それをしてしまうと目標が達成できなくなってしまいますから。OKRで言われているチャレンジというのは、これやりなさいというわけではなく、自分がこれをやりたいというチャレンジですから、簡単ではないがやりたいこと、ということがすごく大事になりますね。
夛田:従来のMBOだと達成度が評価につながって給与、賞与などに反映されていたと思うのですが、未知の世界でストレッチしていると、成果としてなかなか達成できない、できたとしても達成度が低いため、評価も低くなってしまうという懸念をされる気がしますが。
松丘:そもそも何をもって求められる成果とするか、というところですよね。今までやってきたことを繰り返すのではチャレンジとは言えないですよね。それは今までやってきたことの延長線上でできることなので、もし、それで構わないのであればそんなにチャレンジは必要ないわけです。ただ実際、多くの会社ではそれではだめだ、イノベーションによって新しい価値を生み出すべきだと言われているので、そのような成果を評価してあげる必要があります。
夛田:これまでは過去の方程式で成果が出た時代だったのかもしれませんが、これからはそうではない。イノベーションを起こすにはチャレンジする目標が必要だということですね。
松丘:チャレンジには新しい成果を生み出すために必要という成果の側面もありますが、もう一つは、個人の成長のためにも必要です。自分ができること、やってきたことを繰り返しても、そこから新しい気付きや学びはあまり得られません。今まで未知だったところに踏み出してみるということによって、違った景色が見えてきたり、これまでにできなかった経験ができたりすることから、新しい学びが得られますよね。チャレンジによって個人の成長の機会が増えるという意味合いが重要です。
夛田:MBOだとなかなか個人の成長というイメージは感じなかったので、個人の成長という視点はとても新鮮に感じました。みなさんも個人がどのように成長していくか、自分自身がどのように成長したいかを、OKRで目標を立てることによって、考えてみるよい機会にしていただければと思っています。
経験学習とは
夛田:個人の成長という言葉がキーワードになっているようですが、自分が成長していくためには、自ら気づきを得て、それをどう活かしていくかがポイントになってくるんではないかなと思います。ただ一言で気づきといっても、どのようなことを気づきとしてとらえればよいのか、意外と難しく感じられるのではないでしょうか。そのあたりについて、いかがでしょうか?
松丘:よく言われますが、社会人の学習の70%は経験を通じて行われます。残りの30%はというと、人から教えてもらったり、研修に出たり、外から知識を吸収したりすることによって得られます。経験から方が気づきは得られやすいですよね。
夛田:経験というのは、日々行っている仕事の経験ということですか?
松丘:そうですね。仕事や社会生活の経験になりますね。経験学習モデルと言われますが、実際経験したことを振り返ったところから、それは自分にとってどういう意味があるのかという意味付けをする。じゃあ次はもっとこういうことをしようというチャレンジを決めて次の経験をする、ということを繰り返すモデルです。そのため、あくまでも気づくのは本人になりますね。自分の体験を振り返って自分なりに解釈をして自分に内在化させることになります。
夛田:よく営業担当者と上司が同行した案件で、これがよかった、悪かったなどと上司から言われることがあるかと思うのですが、そうではなく、自分で気づいていくということ
が大事ということですかね。
松丘:上司から言われるということは無駄ではなく、自分で経験を振り返ってそれに意味付けしていくというのは、結構、難しいことです。どういう観点からそれを解釈していけばいいかとか、経験もたくさんの経験をするので、どこに着目すればいいんだろうということがなかなか自分一人で振り返るのは難しいので、上司からフィードバックをもらったり、質問を投げかけられたりして、これはどうだった?何を学んだ?などと考えられた方が経験学習はしやすいと思います。
夛田:経験を通じて気づきを得て、また次の経験を積み重ねる、少し PDCAサイクルと似たようなイメージがあるのですが、違いはありますか?
松丘:似ているという意味ではサイクルなので似ていますが、PDCAはどちらかというとプランを立てて、そのプラン通りにできたかどうか、できなかったとすると原因は何かを
考えて次のアクションに生かしていくというサイクルなので、プランが先ですよね。プラ
ンを実行するためにはPDCA なんですが、経験学習というのは何かプランを実現するためというよりも、経験したことから自分が学び取っていく、そういうサイクルです。
夛田:経験は、計画を立てて実行することもあればそうでないこともあるという意味では、現場での経験を活かしながらそれをどう振り返っていくかということが大切ということですね。
松丘:プラン通りになることが重要なわけではなく、チャレンジをするとプラン通りにならないことの方がはるかに多いと思うんですね。どちらかというとうまくいかない、失敗経験のほうがむしろ学ぶ機会は多いと思います。逆にうまくいってしまうと、うまくいった理由がわからなかったりするので学びにくいですよね。何事もなく行うことが目的ではないのです。
夛田:OKR という目標の立て方は、積極的にチャレンジするということでしたが、やはり失敗も多いのでそこからどのような気づきを得ていくか、そしてそれを一緒に振り返っていく相手というのが上司であり周りのメンバーでもあるかと思うので、そういう意味では1on1 という場も非常に効果的かなと思いました。
松丘:そうですね。基本的にはOKR と1on1 はセットですよね。OKR を導入している企業は1on1 も導入している場合がほとんどだと思います。
経験学習を促す1on1
夛田:先ほどPDCAという言葉がでてきましたが、経験学習についても少し松丘さんに話を伺いたいと思います。PDCAサイクルという、計画をしてそれを実行して、振り返りをしてさらに新たな計画を立てるといったサイクルがあります。多くの方が学ばれると思いますが、それと同様にサイクル型で表現をされる経験学習というものがあります。この辺り、PDCAサイクルとの違いも含めて解説いただけますでしょうか。
松丘:PDCAサイクルというのは効果的、効率的に計画を実行していくためのプロセスですよね。それに対して経験学習というのは一人ひとりが、仕事を通じて学んでいくプロセスです。
学びには大文字のセオリーと小文字のセオリー2つに分けられるという学者もいます。大文字のセオリーとは何かというと、これはいろんな知識や理論などを外から学んで取り入れるということ。小文字のセオリーというのはどちらかというと自分なりに意味づけするとか、気付くといったような内面的な学びです。よく社会人の学習の7割は仕事の経験を通じて得られると言われますが、これは小文字のセオリーですね。もちろん、いろんな知識を学ぶのは大文字も大事ですが、それを応用して仕事の場で成果につなげていくためには、むしろ小文字のセオリーが重要になってくるわけです。
そういう仕事を通じた経験から学ぶためには2つの重要な要素があります。1つ目はそもそも学びが多い、良質な経験をするということです。同じようなことを淡々と繰り返しているだけですと、やはり学びが少ないわけです。今までにやったことがないチャレンジをする、あるいはそのチャレンジする前にある程度、自分なりに仮説をもってチャレンジする。この経験をしたらきっとこういう体験ができる、そこからこんなことは学べるのでは?と実験的にチャレンすることも大事ですね。
2つ目は経験したことからいかに効果的に学ぶかということです。そこがまさに経験学習になるわけですが、経験から学ぶというのは簡単なようで結構、難しいですね。例えば夛田さんは、この1ヶ月いろんな経験したと思いますけどもそこから何を学びましたか?
夛田:そう聞かれると確かにすぐには答えづらいですね
松丘:誰もがいろんな経験をしていて、いろんなことを気づいているはずなのですが、何を学んだかを自分の中に落とし込めていなかったり、あるいは気づいたけど忘れてしまったりとかいうことがたくさんあるので、経験から学ぶチャンスはあるが上手に学べていないということも少なくありません。自分で振り返って何を学んだかなって考えてもなかなか思いつかないですね。
だから、そこを整理するためにはパートナーが必要で、いちばん効果的なパートナーは上司です。上司はいろんなことを見ているはずなので、あの時、こんなことしたけれどもそれはなぜ?といったように質問を投げかけたり、あるいはあの時の行動はすごく良かったよとポジティブにフィードバックしてあげたり、なんであの時ああいうことを言ったの?と疑問を投げかけたりすることで気づきのポイントも得ることができますし、そこから理由を考えて、自分はこう思ったからだと自分なりの意味を見出していけたりするので、やはり上司が相談相手になることは大事です。
夛田:パートナーが必要というお話がありましたが、PDCAサイクルですとPの時点で計画をするので、その記録が残っていたり、それを振り返ろうという意識も自然と成り立ったりするものの、経験学習となると今のような何か計画を先に立ててやったことを気づく学びではなくなります。毎日振り返ったほうが効果的なのでしょうか?
松丘:毎日日記を書くみたいなことですね。それにはいろんな効果があるということは言われています。上司と話すということになると、いわゆる1on1になりますので、月に1回とか2回とかそんな頻度かなと思います。
夛田:上司との1on1で毎日ではなくても振り返る習慣をつけると、より効果的な経験学習ができるというようなことでしょうか。ぜひ皆さんも1on1での経験学習にトライしていただきたいと思います。
目標設定を支援するには
夛田:目標管理についての理解が深まりました。VUCAの時代といわれている今、個人や企業の目標を達成していくには、経験学習を定着させること、そして新たにOKRを導入することを考える必要もありますね。
次は目標設定についてお聞きしたいと思います。部下が立てた目標に対してマネジャーがどのように支援していくことが必要なのか?松丘さん、目標設定を支援することはマネジャーの仕事のひとつとも言われていますが、理想的な支援というのはどのようなものでしょうか?
松丘:これまでのMBOのように上から目標を与えていくやり方だと、あまり支援する必要もなく、あなたはこれをやってくださいと伝えて、本人が納得するかどうかということだったと思います。現在のようにリモートワークの時代になり、実際に在宅勤務などで仕事をしていく際に、あなたはこれをしてください。あれは終わったか?などということを逐一マネジメントしていくのは現実的に難しいので、一人ひとりが自分は今期これを目標にしようだとか、あるいは次はこれにチャレンジしたいなどと自律的に目標を立てられるようになっていくことがまず大前提として必要です。
自律的に目標を立てるといっても、好き勝手に立てればよいというわけでないのは当然です。会社の目標、自分のチーム目標などの達成に貢献するような目標でないと意味がありませんが、自分はこの目標に向けてチャレンジすることでチームに貢献したいと考えたときに、それが本当にそのチームの方向性と合っているのか、あるいはマネジャーから期待されていることに適合しているか、そういうことについて本人は不安を感じますよね。そのため、そこは相談相手になってあげることが大事かなと思います。
夛田:リモートワークでなかなか対面では会えなくても、自分の立てた目標がしっかり組織に貢献できているかなどについて、話をしていく場が必要だということになりますでしょうか?
松丘:そうですね。当然チームの目標に貢献するためには、チームの目標は何か、どういう戦略なのか、どういうシナリオをイメージしているのかといったことをよく理解しないと、それに貢献する目標を立てられないですから、マネジャーの考えているシナリオをきちんと説明するというのは必要ですよね。
夛田:今までですと上からこの部門の売上目標はいくらだから一人いくらずつ、といった形で分配されていて、考えなくてもなんとなく目標が降ってきていたところがあるかもしれませんが、マネジャーがただ分配するのではなく、それぞれが自律的に考えた目標に対する支援は難しいような気がしますが、このあたり、どのようにするとよいのか、アドバイスがあれば是非伺いたいです。
松丘:ある程度経験があり、自分で考える力のある人は、チームがこういう方向性、会社はこういう方向性を目指しているのであれば自分としてはこれをやりたいというふうに考えられるわけです。逆に、その分野の経験が十分でなかったり、あまり考える癖がついていなかったりするような人は、目標を自力で立てなさいと言われても、何をどう考えてよいかわかりません。
そのため、前者の人についてはできるだけ任せて考えてもらえばよいと思いますが、後者の人については、それならこういうことから始めたらどうか?最初はこういうステップを目指したらどうか?などとマネジャーから提案をして、対応していくことも必要でしょう。
それは今までのような上から目標を与えるというのと違い、あまり経験のないうちはそのように提案しても、だんだん自分で考える幅を広げていくことができるように、次は自分で考えてみては?などと言って範囲を広げていくということが大事かなと思います。
夛田:メンバー側も自律的に自分で考えることが必要になってきますし、マネジャー側も部下の自律的な目標に対して支援をしていくという、両者ともまだ慣れていないことに、慣れて行く必要性があるのかなと、聞いていて思いました。
ぜひこれからは自律的に組織に貢献するという点について自分なりにしっかりと考えていくこと。マネジャーもまたメンバーと共に行っていくということを少し意識していただきたいなと思いました。
目標を公開する意味
目標設定を支援することについてお話しましたが、目標について皆さんの組織ではオープンにされていますでしょうか?全体には公開していない会社が多いのではないでしょうか。
松丘さんの著書「1on1マネジメント」でも、目標は共有や公開することの効果についてお伝えしていますが、目標をオープンにすることによるメリットについておお話しいただけますでしょうか?
松丘:これまでのMBOでは、個人の目標は、個人とその上司だけが知っているという会社が多いと思いますが、実は目標を公開することのメリットは非常に大きいと言えます。
2つの意味がありますが、1つ目は、目標を公開することによって成果が上がるということです。目標を立て、それをきちんと文字にして書いた情報を周囲に公開し、さらにその目標の進捗状況まで周囲に公開することで、成果がどう変わるかを調査したところ、目標と進捗状況を公開することにより、実際に目標の達成率が高まったという研究結果があります。多くの人が見ることになるのでコミットメントが高まるという効果が期待されます。
もう1つは、今の時代、一人でできる仕事がどんどん減っているということです。一人でできる仕事というのは作業的なものなので、決められたタスクを行う個人タスクの成果に占める割合は減ってきていて、他者とのネットワーキングによる成果の割合が増えています。
つまり、いろんな人が協力し合いながら成果を出していく仕事が増えているわけです。その時に様々な専門性を持った人や、異なる物の見方考え方などを融合することにより成功確率が高まることになりますから、連携がすごく重要となります。
夛田:連携という点で公開をした方がいいということでしょうか?
松丘:そうですね。企業で話を聞くと、隣の部署が何をしているかわからないという会社は非常に多いです。営業の部署だから営業だとか、採用の部署だから採用だというのは当然わかるわけですが、何をしているからわからない感覚とは、今、何の優先順位が高く、どこに向けて仕事をしているのか。つまりどの目標に向けて仕事をしているか、わからないといったことです。
そのため、連携しようとすると隣の人や部署が何をしているのか、あるいは自分と同じような目標を設定している人はこの会社の中に他にいるのかなど、そういうことがわかれば連携はもっとしやすくなります。
夛田:連携の仕方ですが、上司と自分だけだと、エクセルシートを共有すれば2人だけなので可能だったかと思いますが、松丘さんがおっしゃるように同僚や他の部署の人など多くの人と共有するとなると、なかなか手法がピンときませんが。
松丘:今はITで簡単にオープンにできますし、デジタルな働き方、あるいは働き方自体をデジタルに変えていくことかなと思いますね。
夛田:目標設定の手法や共有方法を含め、ツール等も検討していくことが必要ですね。またオープンにするにあたっては、最初の時点で抵抗があるという方が多いと思いますが、そういった意味ではやはり心理的安全性の確保といいますが、オープンにする前段階の土台作りというところも大切になってくるのでしょうか?
松丘:心理的安全性がないからオープンにしないとしていると、恐らくいつまで経っても変わらないと思います。そのため、働き方もデジタルにする。デジタル環境の中でもいろいろな情報が共有されていて、誰がどういう仕事をしているかが分かるような環境にしていくことが大事かなと思います。
夛田:ぜひ皆さんもデジタル時代に合わせた目標設定の仕方、また目標をどう皆さんで共有していくかということについて、改めて考えていただけるといいなと思います。
目標をいつ見直すか
夛田:目標の共有について伺いましたが、目標はどのぐらいの期間で見直しをしていますか?1年ごともしくは半期ごという会社が多いのではないかと思います。VUCAの時代において、目標は臨機応変に見直した方がよいのか、これまで通りの間隔で問題がないのかについて松丘さんに話を聞いてみたいと思います。
松丘:目標によっては非常に短期の目標もあれば、長い期間の目標もあると思うので、一概に四半期ごとに見直すのがよいとか、半年ごとがよいとかいうわけでもないと思います。
ただ、最近の傾向では、四半期くらいで環境が大きく変わるので、それくらいで見直していく会社も増えています。ただ、問題は期間よりも目標の中身、内容です。
かつての目標というのは必ずやり遂げるべきだという、必達目標みたいなものでした。何個を売りますというように、どちらかというと努力の量と成果の量が比例しているような業務であればそれでもよかったかもしれません。しかし最近では、頑張ったら成果がそれに比例してついてくるというものは、どちらかというと減ってきています従来の常識みたいなものが通用せず、すべてが新しいチャレンジという環境になったので、単純にそのインプットの量を増やせばアウトプットが増えるわけではないからです。
つまり、目標というのは、どちらかというと必達目標というよりも、仮説に近くなります。この目標を目指すことが恐らく戦略的にいちばんよいだろうというような、そういう仮説に基づくシナリオです。
仮説が本当に合っているか否かというのは、やってみないと分かりません。例えば、見込み顧客を獲得するのにウェブサイトへのアクセスを増やそう、今アクセス数が少ないから何倍にも増やせば見込み顧客も増えるだろうと考え、実際アクセス数を増やしたが見込み顧客が増えない。そういうことはよく起こりうるわけです。
そうするとなぜ増えなかったのか、ということを分析することになります。そうした時に、実は単純な量の問題ではなく、アクセスの質の問題だと思うということがわかってきたならば、立てるべき目標は単純な量的なものではなく、○○という質を伴った集客が必要だというように、内容は変わります。
環境が変わるごとや、実際に実施して得られた結果を分析しながら、軌道修正していく。そういう臨機応変さが必要となります。
夛田:期間だけではなく、総合的にいろいろな観点から、常に見直していくような視点が必要になってくるということにもなりますか?
松丘:そうですね。ただそこでいろんな判断があってよいわけです。仮説と違うかもしれない、仮説通りの結果が得られないがまだここに拘りたい、といった判断もあります。
量を増やしたら増えるだろう、という先ほどの例だと、量の増やし方が足りなかったのかもしれない。こちらがダメだったらこれにする、という単純なことではなく、そこに本人の意志だとか、論理的な分析など、いろいろなことを総合して考えます。結局、目標を変えるのは本人なので、成果が出ないから目標を変えるようにと上から言われるのでは今までと同じです。そうならないように判断していくということです。
夛田:目標を設定する際の自律についてもお伝えしていますが、その中で仮説をどのように、そしてどのタイミングで変えていくかについても、あくまでも本人の意志をしっかりと踏まえて考えていくことが大切だということになるかと思います。