【対談:1on1マネジメント】マネジャーに求められる変化とは
アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。
管理型から支援型へ
夛田:今回はマネジャーの役割について皆さんと考えてみたいと思います。あらためてマネジャーの役割って何なのかと問われると、管理をすること、もしくは部下に指示を出すこと、そのように思っている方も多いかもしれません。松丘さんが考えるマネジャーの役割とはいったいどのようなものでしょうか?
松丘:今、夛田さんが言われたように、かつてはいわゆる管理者でした。マネジャーは管理職と言われたように管理をするのが役割でしたよね。
夛田:何を管理するということでしたか?
松丘:労働基準法に管理監督者という言葉があります。会社の立場で従業員を管理する、指示するのが管理監督者の役割。どちらかというと会社側に立っているということです。
まじめに働いているか、安全に働いているか、そういったようなことを管理監督するという意味合いです。ただ、特に最近の働き方に基づくと、管理をして仕事をさせるということよりも、メンバーの側がもっと自律的に仕事をしていくということが求められています。
実際、リモートワークをしている場合、逐一すべて管理することは非常に難しいですし、在宅勤務の場合は家のことなどもやりながら自分で時間のコントロールをしますよね。そのため、9時から5時まで働くことを管理するということ自体の意味が薄れています。ここで求められているのは、従業員の方が自律的に仕事をしてその中で成果を出していくことを支援していくという役割ですね。
夛田:先日ある会社の方とお話をした際にも、管理職もしくはマネジャーの方が部下を支援するような役割になるようにと会社から言われているが、具体的にどういう支援、自律のサポートをすればよいのかというところが悩ましいというお声がありました。これについてはどうでしょうか?どのようなことを支援することが望ましいですか?
松丘:基本的には、1on1で何を話すのかというのと同じことです。1on1はただ1対1で話せばよいということではありません。1対1で管理しても意味がありません。たとえば、自律的に働くということになると、一人ひとりが自分で目標を立てるといったことが必要になってきます。その目標を立てる際に、本人からすると自分の立てた目標が、会社の方向性や、上司の期待に沿っているのかどうかが不安になりますから、そういう相談に乗ってあげるというのは一つです。
あるいは、仕事はやりっぱなしだとあまり意味がなくて、仕事をした経験の中からいろいろ学んでいく。自分なりに気づきを得て学習してそれをまた次の仕事に活かしていくといったサイクルが必要になってきますが、仕事の中で学んだことを、一人で振り返るのはかなり難しいので、上司が話し相手になる必要があります。
また、この前の〇〇すごく良かったよといったポジティブフィードバックをもらえると、あれはよかったんだということがわかります。もちろんその逆もあります。そういうフィードバックや質問を投げかけてくれる相手がいないとなかなか仕事の経験から学ぶことは難しいと思います。
夛田:勤務時間を守って働いていたかなどといった勤怠管理ではなく、その人の悩みに沿った形で、並走していくようなイメージでメンバーのことをサポートしていくというようなことでしょうか?
松丘:悩みだけではなく、将来こういうことを目指していきたいという姿が共有されたら、こういう機会があるからちょっとチャレンジしてみない?今度、本社の方でこういう研修があるけど参加してみない?といったように、機会を作ってあげることもできますよね。
夛田:そうなると10人メンバーがいると10人に違ったサポートの仕方が必要になってきますよね。マネジャーの方の引き出しと言いますか、今までよりもより考えた部下指導・支援が必要になってくるなと感じましたがこの辺りいかがでしょうか?
松丘:当然、一人ひとりを見て対応することが大事です。自分はこうやってきたから皆こうすべきといった考え方はしない方がよいと思いますね。
多様なキャリアの必要性
夛田:管理職に関する、昨今の変化についてもう少し教えていただけますか?
松丘:日本企業の人事の考え方は、よくメンバーシップ型と言われます。社員は会社のメンバーシップに入ったら、会社に従属する位置づけで、会社から言われたことを業務命令に従って遂行します。
たとえば、転勤してくださいと言われれば転勤する必要がありますよね。その代わり会社の中での雇用が守られ、まじめに働けば昇進し、処遇も上がっていくという考え方です。
その中で管理職は、一般の従業員を管理する側。経営側に立ち、きちんと仕事をしているか、成果を出しているかを管理する役割を担っていました。
企業に入ってからのキャリアの前半戦は、管理職になるということが目標になります。上へ上へと上がっていくことがキャリアのイメージで、最初の大きな目標は管理職になる、ということです。どういう人が管理職になるかというと、やはり会社に貢献した人でした。
夛田:その貢献というのは例えば業績を上げたということでしょうか?
松丘;会社に貢献した人は、評価が高いかどうかで見極めます。基本的に評価の高い人が管理職になるというのが、今までの考え方でした。
夛田:学校だと成績の高い人が評価をされてきたということに近いですよね。それが今は変わってきているということでしょうか?
松丘:特にコロナの問題以降大きく変わってきています。多くの会社では、従業員に自律的に仕事をしてもらいたいと考え始めています。今までは従属でしたが、逆に自律性が求められるということです。言われたことをやってくださいとなると、在宅勤務でいちいち報告するのか?ということになりますよね。
夛田:管理が難しいですよね。在宅勤務ですと目の前にメンバーがいないので。
松丘:目の前にいないこともそうですし、環境変化も非常に激しいので、現場で一人ひとりが自分で考えて工夫して成果を出していけるようになってほしいと、自律的な働き方を求める会社がすごく増えてきています。
要するに管理をする/されるということでは、会社に言われたことを言われた通りにやるというマインドになるので、自律はできないことになります。
そのため、管理職は管理をするというよりも、いかに自律させて成果を出せるように支援していくか、そちら側に変わってくるということを意味します。
夛田:自分が育った時代とずいぶん違う、あるいは自分がされていたマネジメントとまったく違うことをしなければならないという壁にぶち当たっている方も非常に多いかなと思いました。この辺りはどのように意識を転換させて向き合っていけばいいのでしょうか?
松丘;今までは会社に貢献したから管理職メンバーシップにいれてあげます、ということでしたが、今後、管理職に登用される人というのは、メンバーを動機づけたり育成したりすることが得意な人、あるいはそういうことをやりたい人が本当は管理職になっていくべきですよね。
登用の基準は今後も変わってくると思いますが、今いる管理職の人たち、全然違うパラダイムの中で過ごしてきた人たちがどう変わっていくのかということは、また別の難しい問題です。
夛田:そうですね。これまでは会社に貢献をして業績をあげた人、評価・点数の高い方が管理職でしたので、その方たちが偉く見えるような見え方でしたが、松丘さんのお話だと、動機づけができる人、得意な人、やりたい人となりますと、決して管理職が偉いとかいうわけではなく、管理職に対する見方や管理職そのものの置かれている位置に関しても変化していく必要があるということでしょうか?
松丘:そうですね。上に上がるということが唯一のキャリア目標ということではなく、会社の中で、もっと多様なキャリアが必要ということだと思います。
たとえば大企業の場合、定期異動があり、ある部署に配属された人がその部門の専門性を身につけ、その領域の人脈をたくさん作ってその道のプロになってきた時に異動してくださいということはよくある話です。
石を1個ずつ積んできてすごく高く積めたのに倒されて、別の石をまた積み上げてと言われる感じですよね。そうではなく、どんどん石を積み重ねていってもよいというキャリアの多様性が必要です。
夛田:社内でのキャリアの描き方や、キャリアを自分が導いていく、積み上げていくという考え方そのものを、もう少し変えていく必要があるのかなと思いました。
ぜひ皆様も改めてキャリア、またこの管理職のあり方というところをご自身なりに考えていただければと思います。
マネジャーにとっての経験学習
夛田:マネジャーの役割としてメンバーを支援することが重要とお話ししてきました。メンバーが気づきを得ることについてお伝えしたわけですが、今日はマネジャー自身が気づきを得ることの大切さについても話をしてみたいと思います。
松丘さん、マネジャー自身が気づきを得ることとは、いったいどういうことなのでしょうか?
松丘:1on1というのは基本的にはメンバーのための場、あるいは時間と言われますし、その通りではありますが、同時にマネジャーが学習する場でもあります。
マネジメントというのは知識があっただけではできません。マネジメントの本を読んで知識を得たから達人になるというわけでもないですよね。部下も十人十色ですから、一人ひとり違いますし、同じ相手でもその時の状況によって全然違ったりするわけです。このパターンなら大丈夫、といったように特定のやり方が良いということでもありません。
そのため、マネジメントが上手にできるようになるためにはマネジャー自身が経験しなければなりません。経験してそこから気づきを得る。やはりそうなんだ、というふうに自分自身で内省を繰り返していく中で、自然とそれが蓄積されてきてマネジメントがうまくなるということです。
夛田:1on1の場は基本的にメンバーのための時間ではありますが、マネジャーの学びの時間でもあるという観点に意外とハッとさせられた方もいらっしゃると思います。具体的にマネジャーがどういう学びや気づきを得たか、というお話を共有いただけますか?
松丘:上司も当然、自分の価値観を持っているので、自分のフレームで相手を見ていることは少なくありません。
なんでこういう行動をとるんだろう、なんでそんな考え方しかできないんだろうという見方でいると、相手もそう見られていることがわかるので反発してきます。
あるいは、逆に何かのきっかけですごく自然に、同じ相手に対して、あ、そういう考え方だったんだということがふと分かることもあります。そのように、自分の見方は違っていたのかもしれないと気づくことはすごく多いと思います。
夛田:自分の見方の偏りや、捉え方の偏りみたいな部分だということですね。やはり、この捉え方の偏りがない方が、マネジメントはうまくいくということにもつながってくるのでしょうか?
松丘:そうですね、人の価値観は違いますから、それによって何を大切にするか、何の優先順位が高いかは皆さん違います。一人ひとりのものの見方や強み、行動などはそれぞれ違うので、それらを引き出してあげることによって本人の充実感も高まりますし、チーム全体としてもパワーアップできます。
夛田:1on1の場では上司の方がメンバーを理解するという話はこれまでもお伝えしてきていますが、メンバー側に立つと、どうせこの上司に言っても理解してもらえないなどと上司に対する不満や不平みたいなものをお持ちの方もいるかもしれません。それはメンバー側も眼鏡をかけて見てしまっているということにもなりますね。
松丘: そういう可能性はありますね。
夛田:そうすると、お互いの色眼鏡を外して話すと言いますか、見方を変える、また捉え方を少し自分で変えてみるなど、気づきを得る場というものが1on1の場にもなるので、違いに気づくという観点で1on1を行ってみると、今までとは異なる景色が見えるのではないでしょうか。
コミュニケーションとは何かを考える
夛田: 在宅勤務が増えマネジメントの変化や社員一人ひとりの自律性が必要になってくるといった話がありました。他にもコミュニケーションを渇望している、人と話す機会が少なくなり寂しい思いをしているといった話をよく耳にします。私たちが気軽に使っているコミュニケーションという言葉ですが、これは一体どういうことなのか、改めて解説したいと思います。
松丘さん、コミュニケーションについてお話しいただけますか?
松丘:コロナ以降、組織の中のコミュニケーションが少なくなって困っているという話は聞きますよね。コミュニケーションが減少しているのは、コミュニケーションを増やそうとしていないからです。
夛田:それはコロナや在宅勤務だからということではなくということでしょうか?
松丘:もちろん、会えていればコミュニケーションは挨拶も含めて自然にできますが、会えていないとコミュニケーションはなくなります。なくなった状況の中で増やそうとしていないということですね。
何を言っているかというと、今から9年前に「アイデアが沸きだすコミュニケーション」(アイデアが湧きだすコミュニケーション | 松丘 啓司 |本 | 通販 | Amazon)を出版していてそこにも書いていますが、コミュニケーションはコミュニケーションが生むということです。
夛田:それは自分が発信したら、そこからまたコミュニケーションが生まれるということでしょうか?
松丘:今の会話も、夛田さんの発言は私の発言があったからされましたよね。それが一つのコミュニケーションです。それがその次のコミュニケーションを生んで、その次のコミュニケーションを生むという、自己生成的と言われますが、そういう性格を持っています。
そのため、こういうリモートワークの環境で、誰かが誰かに対して意図的にコミュニケーションを投げかけない限り、そこから次のコミュニケーションというのは発生しないのです。
夛田:テニスのラリーみたいなのに近いですか?
松丘:よくコミュニケーションとはボールのキャッチボールに例えられますが、キャッチボールもテニスのラリーも、同じものを投げ同じ球を打ちます。けれどもコミュニケーションの場合は変わっていきます。
こちらは青い球を投げたのに返ってくるのは赤い球というように変化していくので、そこで色々な違いやアイデアが生まれるという性格を持っています。
夛田:意図的にコミュニケーションをとることを心がけるということが大事だということでしょうか?
松丘:個人が声を掛けるというだけではありません。ドイツの社会学者であるニクラス・ルーマンが言ったことですが、社会システム、会社の組織というのはコミュニケーションによって成り立っています。
組織と言うと人で成り立っているように感じますが、人がいてもみんな黙っているようでは組織としては成り立ちません。あるいは、電車の中でたまたま乗り合わせている人がたくさんいても、それが組織かというと組織ではありません。しかし、何かの目的に向けてそこでコミュニケーションが起これば、それは緩やかな組織になります。コミュニケーションが減るというのは組織としては非常に危険な状態なのです
夛田:組織=コミュニケーションといった感覚も強いので、コミュニケーションが減るということは、組織活性化がされないということにも繋がっていくということでしょうか?
松丘:そうです。組織としても弱っていくので、意図的にコミュニケーションを増やす方法や手段を作っていく必要があります。
夛田:コミュニケーションを増やす手段は、昔に比べると増えたような気がします。例えば、会うという場面が減っても、メールやチャットなどいろいろなツールを通して文字でやり取りすることも、コミュニケーションの一つかなと思いますが、それだけではなく、オンライン上でも対面で話すことが大事ということでしょうか?
松丘:当然、文字で表現できることと、このように1on1で話していて伝わる、あるいは起こるコミュニケーションというのは、若干、性格は違いますが、文字には文字の良いところがあります。
例えば、クラウド上のSNSで何かを発信した時に、そのコミュニケーションはたくさんの人に同時に伝わります。それに対していろんな人が反応すればまたコミュニケーションが増え、幾何級数的に増えていきます。そういう意味でのコミュニケーションを増やすという意味合いで効果もあります。
ただ、対面でのコミュニケーションをとることにはたいへん意味があります。なぜかというと、私が例えば夛田さんに何かを伝えようとしているときに、夛田さんは私の言葉を聞いて意味を受け取ろうとしますが、本当は言葉だけ聞いてもよくわからないからです。今日いつもと違いますねと言ったとしたら、意図は何だろうと思いますよね。
コミュニケーションで伝える意味は表面上の言葉だけではなく、どうしてそれを言うのかという意図とセットにしておかないとやはり本当の意味は伝わりません。言葉だけのコミュニケーションでその言葉の意図まで伝えるのは結構、難しいのです。
夛田:文字だけだと難しいですね。文字コミュニケーションの良さと対面コミュニケーションの良さとをどちらも使い分けていくということが大事になってきますか?
松丘:このようなデジタルの時代になってくると、両方使い分けるというのがすごく大事です。デジタルの時代なのに、リアルのコミュニケーションだけに拘っていたら、当然、コミュニケーション量が減り組織が弱っていきます。
しかし、リアルのコミュニケーションにはそれなりの良さがありますので、両方をうまく使うという組織能力が大切です。個人で上手に使い分けてくださいというのはなかなか難しいので、会社としてそういうリアルのコミュニケーションの場、デジタルのコミュニケーションの場をきちんと用意していくということが大事かなと思いますね。
夛田:会社としてのコミュニケーションの場づくりも大切ですが、私自身は、そもそもこのコミュニケーションとはいったいどういうことなのか、また自組織においてどういうコミュニケーションが必要なのかということを考える、このようなそもそも論を社内でディスカッションするのもいいのではないかなと思いました。当たり前に使っている言葉だからこそ、改めて考える。今こそそんな時代なのかなと感じました。