【対談:1on1マネジメント】1on1とは何か?その効果は?

更新日: 2023-06-01

アジャイルHR代表の松丘啓司と講師の夛田素子による対談形式のコラムをお届けします。

 

夛田:「1on1」という言葉がこの数年いろいろなところで聞かれるようになりました。本日はそもそも1on1って何なのか?それを行うとどのような良いことがあるのか?1on1はなぜ取り入れられるようになったのか?などについてご紹介できればと思います。

 

1on1対話と議論の違い:対話は重ね合わせ、議論は勝ち負けを追求する

 

松丘さん、そもそも1on1とは何を意味するのでしょうか?

 

松丘:1on1とは文字通り1対1を意味しますが、職場において上司と部下が1対1で対話を行う場を指して1on1と言っています。

 

夛田:1対1での対話を指すということですね。これまでも職場で上司と1対1で話すことはあったと思いますが、敢えて1対1ということを取り上げる意図、目的は何かありますか?

また、この対話とはどのようなコミュニケーションのことを指しているのでしょうか?

 

松丘:対話というのは文字通りお互いに話すことです。対話の説明をするのにいちばんわかりやすいのは、対話の反対側にあるコミュニケーションについて考えてみることです。

 

夛田:対話の逆側、それは何なのでしょうか?

 

松丘:対話の逆というのは、議論です。議論という言葉には、戦いの概念が含まれています。議論を闘わせる、議論に勝つ、などという表現がされるように、もともと勝ち負けの意味合いが含まれています。では、どうすれば議論に勝ったことになるかというと、自分の主張を相手に認めさせたときに、議論に勝ったということになります。

 

そのため、議論というのは、まず自分ありきです。お互いに話しているように見えますが、議論しているときというのは、自分の主張をいかに相手に納得させるかを考えている状態で、お互いに自分発ということになります。

 

対話はその逆で、まず相手を理解するということが大切となります。相手を理解して、相手がなぜそういうことを言っているのだろう?その意図はなんだろう?あるいはこの人は何を大切にしているからそういうことを言っているのだろう?といった価値観を理解した上で、自分も意見する。あなたはこういうことを思っているのか、それならこういう考え方もあるんじゃないか?というように、お互いの考えを乗せていく、そういうコミュニケーションです。

 

夛田:議論は勝ち負けだという話がありましたが、対話はそうではなく、お互いの話を重ね合わせていくようなイメージなのですね。

 

1on1の目的:成長支援とキャリアビジョンのサポート

 

多田:1対1ということを強調する意図、目的は何なのでしょうか?

 

松丘:当然、仕事の場で上司と部下は業務の会話をしますし、これまでの企業の制度でも半期に一度くらい、目標設定やその達成度、業績評価を振り返ってフィードバックするという面談はありました。ただ、どちらかというと評価が目的になっていて、あまり一人ひとりを支援するという色彩は薄かったといえます。けれども、評価をしたり管理をしたりするだけでは個人が成長するのはなかなか難しいので、一人ひとりの成長やパフォーマンス向上の支援を目的として、半期に一度ではなくもっと頻繁に、必要な時に会って話すことの方が効果的なのではないかという考え方に基づいているものです。

 

夛田:パフォーマンス支援という言葉がすごく新鮮だと思います。今までだと半期に行った結果がどうだったかということのみで、結果だけにフォーカスされていますよね。自分自身にフォーカスしてどう頑張りたいのか、将来像など話すイメージが湧きませんでしたが、私自身を見ていただけると捉えてよいということでしょうか?

 

松丘:評価というのはどちらかというと過去のこと。済んだこと。それに対して、成長というのはどちらかというと未来のことですよね。これからどうしていきたいか。何を経験していくか、というような未来志向で話すことが重要です。

 

どう成長していくか、何をやりたいかというのは一人ひとり違うので、それぞれに応じて話す内容が異なってくるわけですよね。そういうところが1on1とこれまでの面談の一つの違いになります。

 

夛田:成長支援について具体的にイメージできないという悩みをお持ちの方もいらっしゃるようですが、成長支援とはどのようなイメージを抱くとよいのでしょうか?

 

松丘:メンバーを支援してくださいと言われた時に、マネジャーは何をどう支援すればよいのか、と悩むと思います。しかし、そのメンバーが「自分は将来こうなりたいです」「こんな活躍がしたいです」と、明確なビジョンを持っていたなら支援はすごくしやすいですよね。

 

「そういうことを目指しているのであれば、今のうちにこういう経験をしておいたほうがいいよ」「それだったら私の知り合いにこういう人がいるから、今度紹介してあげるよ」といったように、自分には何ができるのかがイメージしやすいと思います。

 

メンバーがいわゆるキャリアビジョンを持っていると、マネジャー側にとってもすごく支援しやすいですし、いろいろな支援を受けられるメンバーもキャリアビジョンに近づきやすくなりますよね。しかし、実際のところはキャリアビジョンが明確になっていないメンバーが多くを占めているのが現実と思います。

 

夛田:つまり成長支援とはキャリアビジョン、またキャリア開発をサポートしていくようなイメージで捉えていくとよいということでしょうか?

 

松丘:そうですね。成長といっても、どう成長したいかというポイントはみんな違います。会社の中で、こういうことができることが成長だ、と会社の物差しを当てはめて、それに合わせて成長してないな、みたいなことを言われても、本人はそういう成長をしたいかどうかわからないわけですよね。

 

夛田:自分のキャリアビジョンがはっきりとしていない方も多いかと思いますので、キャリアビジョンを考えることをサポートしていく、一緒に考えていく、1on1がそういう場になればよいなと思いました。

 

目標と現状のギャップ解消:1on1で実績の中身を振り返る

 

多田:少し話は変わりますが、1on1の場で、現在の仕事の進捗状況や目標の状況を確認することがあります。その際、メンバーがイメージしている状態、また目標としている状態に対してなかなか追いついていないというギャップがある状況も少なくないのではないかと思います。そのような場合、どのような1on1を行っていけばいいのかポイントを教えてください。

 

松丘:よくあるケースですね。目標に対して今50%しかいっていないときに、残りの50%はどうやって埋めるかといった話です。残りの50%を埋めるのは、未来の話になります。そこは何もない未知の世界なので、未来に目を向けてどうやって埋めていくかというシナリオを考えるというのは、これはこれで必要ですが、なかなか将来のシナリオをイメージするというのは難しいところでもあります。

 

では、どうすればそれがイメージできるようになるかというと、将来だけに目を向けるのではなく、50%というパーセンテージに現れない色々な実績に目を向けるとよいと思います。

 

いろいろな人との関係ができたとか、あるいはこういうことを学んだとか、何が積み上がってきているか、というところに目を向けるのも大切です。

 

夛田:中身ということでしょうか?

 

松丘:石垣を積むような、そういうイメージで考えてみるとわかりやすいでしょう。今、50%のところまで石垣が積まれています。残りの50%を積もうとするとその石垣の上にさらに石を載せていく必要がありますよね。その時に大きな石を載せるといっぺんに稼げますが、その大きな石だけだと石垣はできないですよね。大きな石と小さな石を組み合わせるから、崩れにくい石垣ができます。

 

夛田:そうですね。間もきちんと埋まっていくということですね。

 

松丘:今、大きな石、小さな石が色々あるにしても、どういう石が積まれているのかということを考えてみると、ではこの上にこれを載せてみたらどうだろうとかいう発想が湧きやすくなるかなと思います。

 

夛田:つい目先の数字だけを見がちですが、その中身ですね。なぜその50%が達成できているのか、何ができるようになったのか、このあたりにも注目することで残りのパーセンテージも埋まっていくのだと感じました。

 

1on1の起源と意義:変化する経営環境に対応する自律的な行動

 

夛田:大人になってからも成長を感じることができるということがすごくわくわくしますね。この気持ちで1on1を続けていきたいと思います。そんな1on1ですがどこから来たものなのでしょうか?

 

松丘:1on1という用語はバスケットボールで使われたりするように、発祥はアメリカです。2010年を過ぎたくらいから、ビジネスの世界でも少しずつ広がってきました。

 

夛田:2010年という話がありましたが、何かこの年はキーになる出来事があった年だったということでしょうか?

 

松丘:ある年を境に急速にということではなく、2010年ごろからいわゆるデジタル経済が進展し、それに伴ってGAFAなどのデジタル系の企業の勢力が急速に強くなっていった、あるいは、経営環境自体がいわゆるVUCAと言われるように、非常に不確実性が高くなり、不安定になった時代に入りました。そのような環境下で、ビジネスモデル自体が従来のものから変わってきたというところが、大きな意味での背景と言えるでしょう。

 

夛田:経営環境が変わっていく中で、上司と部下のあり方自体も変化をさせなければいけないという意図もあって、1on1というものが始まったということでしょうか?

 

松丘:そうですね。ビジネスモデルがある程度、確立していると、上司はどうすればうまくいくか、成長するために次は何をすればよいかとわかっているわけですが、上司自身がどうやればよいかわからないという状況になったので、上から命じたり指導したりという、上意下達の方法ではなかなか成果につながらなくなってきたのだと思います。上からじゃなくて一人ひとりが自分で考えてやってみるとか、一人ひとりが持っている違った視点や価値観を活かして自律的な動き方をしていかないと、なかなかイノベーションは生まれてこないし、成果にはつながっていかないという変化があるのかなと思います。

 

夛田:ということは1on1の場でも、自分が今後、自律的に何に取り組んでいく必要があるのか、何をしたいのか、といったことを話した方がよいということでしょうか?

 

松丘:そうですね。そういう自律的な姿を目指して、上司の側も支援していく。一人ひとりが自分で将来のキャリアビジョンを描いたり、自分で目標を設定したり、それに向けて行動した結果を振り返って学んでいくということが自律的にできるように、上司の側も支援していくというマインドが必要と思います。

 

夛田:時代の変化が激しくなっている中で、1on1を自律的に自分たちが何をすべきかとしっかり見据えられる場にしていくということが、大きなポイントと感じます。

 

1on1における傾聴のポイントは相手を認める「承認」

 

夛田:1on1では様々なことを上司から支援してもらえるとのことでしたが、これを上司に話してよいのかと悩まれる方も多いのではないかと思います。私自身も過去の経験からいうと、この人に話しても支援してくれるのかなと思ったり、また、上司も忙しい中そんな時間を作ってもらっていいのかなという気持ちになったりすることも正直あったのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

 

松丘:もちろん、何でも話してよいのですが、前提として上司側がしっかりと傾聴して、相手を理解しようとするという姿勢が大事になります。上司の側がダメだしをしたり、君はここが問題だねと改善点の指摘をしたり、どちらかというと自分の考えを一方的に伝えると、部下の側は、自分はやっぱりだめなのかな?あるいはまた叱られるんじゃないか?と思って、言いたいことが言えなくなってしまいますね。

 

夛田:上司の視点から見ると、傾聴のポイントは何なのでしょうか?

 

松丘:傾聴のスキル以前に、基本的には「相手を認める」という姿勢かなと思います。一人ひとり何を大切にしているかという価値観はみんな違い、それによって考え方や感じ方も違うので、この人はこういう人なんだということをしっかりと理解してそれを承認することが大切だと思います。

 

夛田:承認、認めるという言葉が出てきましたが、なんとなく「褒める」ということに近いのかなと感じましたが、褒めることとはまた違うニュアンスでしょうか?

 

松丘:上司の基準で判断している例が多く見られますが、そうではなく、ありのままにこの人はこういう人なんだと、主観的な基準を入れずにありのまま理解することが必要です。その上で、「そういうところが〇〇さんらしいね」とポジティブにフィードバックすれば、部下も自分が認められていると感じます。褒めるというのと少しニュアンスが違うかも知れません。

 

夛田:上司の中の基準と比較されないというお話でしたが、部下どうしの横での比較もしないという前提だということですよね。

 

松丘:そうですね。やはり何かの比較があると、自分はできている、できていないということをどうしても考えてしまうので、ありのままの自分で、ここにいる価値があるんだと思えると、それが自己肯定感や頑張っていこうという気持ちの土台になると思います。

 

夛田:テクニックというよりも、心理的に話してもよいと思えることが大事ということですね?

 

松丘:そう思いますね。

 

夛田:上司の方とも心理的な部分でのハードルを下げながら、お互いに1on1ができるような環境を作っていただけるとよいのかなと思いました。

 

1on1の効果:メンバーのパフォーマンス向上を支援する対話の重要性

 

 夛田:1on1を行う必要性はわかりましたが、具体的にどんなメリットや効果があるのでしょうか。

 

松丘:いちばんの効果というと、やはりメンバーのパフォーマンスが上がるということですね。

 

今まで多くの会社で行われてきた目標管理の面談は、期初に目標を立てて、立てるというより無理矢理与えて、この目標を達成したら評価するから頑張れ、といったような感じで仕事をさせ、期末になったらどれくらいできたかという状況を確認する。よくできたら評価を高くする。達成できなかったらよい評価はあげられないから来年はがんばろうと締めくくる。そういった感じでしたよね。

 

期初と期末しか面談をしていませんでしたし、その面談自体が形骸化している会社もあります。

 

夛田:達成度にフォーカスをすることが多かったですよね。

 

松丘:評価を動機付けの手段として、本人のがんばりを期待していたわけですが、よくよく考えると管理をして、がんばれと言っているだけでパフォーマンスが上がるほど簡単ではありません。

 

1on1では始めと終わりということではなく、中間に行います。要するに、パフォーマンスというのは、入口から出口のその中間のプロセスの中で高まりますから、そこを支援するということです。

 

頻繁に対話をして、相談に乗ったり、コーチングをしたり、アドバイスをしたりすることによって、伴走するのが1on1です。今まで不足していた支援を行っていくことになるので、やはりパフォーマンスは上がりますよね。

 

夛田:そうですね。期初と期末の面談の間を埋めていくようなイメージというのが、この1on1ということでしょうか?

 

松丘:今まではメンバー任せにされていたところを、しっかりと支援していくということです。本来必要なことを、手を抜かずにきちんと対応していきましょうということかなと思います。

 

夛田:1on1がメンバーのパフォーマンス向上につながるものだという目的意識をしっかりと持つことが重要ですね。忙しくてなかなか時間が取れない、つい後回しにとなりがちなマネジャーの皆さんも、今一度、目的や効果を考えて、1on1の時間をしっかり取っていただきたいと思います。

 

1on1の記録の重要性と効果:振り返りと共有による成長の促進

 

夛田:また、皆さんからよくいただく質問の中に、1on1を行った際、記録が必要かというものがあります。その記録についてお伝えしていきたいと思います。松丘さん、この記録についてはどのようにお考えですか?

 

松丘:1on1の記録を残すことによる効果はそれなりにあると思います。1on1を始めたばかりの頃は、1on1自体を定着化させるためにできるだけ負荷をかけさせたくないということで、記録は必要ないというところから始める会社もありますが、ある程度軌道に乗ってきたら記録した方がよいと思いますね。

 

夛田:それはどうしてでしょうか?

 

松丘:いくつか理由はありますが、一つ目は振り返り効果です。自分自身が考えたこと、感じたことを言葉にすることによって振り返りの効果があるということです。

 

また、1on1の場で上司と話してそこで何か気づいたとしても、言葉にしておかないと忘れてしまいますよね。そのため、忘却防止という効果もありますね。特に上司からすると部下は1人だけではないので、前回の1on1で何を話したかなと思いだそうとしても、全員分を覚えていることは難しいですよね。そうなると毎回の1on1が途切れ途切れになってしまいます。前回こういうこと話したよね、じゃあそれそれからどうだった?といったように、前回から今回までのつながりで話すことが難しくなります。

 

夛田:松丘さんがお話されている記録というのは、本人が記録というイメージですか?それとも上司でしょうか?

 

松丘:基本的には本人が取る必要があります。何かに気づいたりするのは本人なので、上司が替わって書いてあげるということにあまり意味がありません。また、上司が何かを書いたとしてもそれは上司の主観なので、本人が考えていることとは異なりますよね。

 

夛田:先日、お客様からもちょうどこの記録という観点で質問をいただいたのですが、先ほどの話にもありましたが部下がたくさんいるので上司自らも記録を取りたい、という質問がありました。上司も記録は残しておいた方がよいのでしょうか?

 

松丘:残せるのであれば残した方がよいと思います。ただ、いちばんよいのは本人が何かを書いた後に、それに対して上司がコメントをするような形で残す方法だと思いますね。上司だけのメモがあったとしても、本人にフィードバックされないとその本人のためにはならないからです。

 

夛田:そうすると、本人が書いたものも、上司と共有ができた方がよいということですよね。

 

松丘:上司だけではなく、抵抗がなければ他のメンバーにも共有してよいと思います。そうすることによって他のメンバーからもフィードバックがもらえるかもしれないし、あるいはその本人の振り返りを見た他のメンバーがそこから何か気づきを得ることもあり得ます。上司に報告するような感覚というより、自分はこういう事を気づいたよ、ということをオープンにすることが大事だと思います。

 

また、だんだんと記録が溜まってくると時系列での自身の変化もわかります。自分の成長の過程、3ヶ月前、半年前からどう成長したかなというのはなかなか自分でもよくわからないですが、記録が溜まってくると、その間の自分の成長を確認できるという効果が期待できます。

 

記録の公開とサポートネットワーク:チームのパフォーマンス向上と心理的安全性の重要性

 

夛田:1on1記録を公開することに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。松丘さん、この1on1の内容、気づきを公開するということは、そもそもどういうことなのでしょうか?

 

松丘:これは上司だけではなく、他の周囲の方からいろいろ応援してもらったり、見守ってもらったりすることによってサポートネットワークができるということです。

 

夛田:自分以外の周りの人からも支援していただけるっていうことですか?

 

松丘:支援したりされたり、そういう関係性ができることが重要です。仕事は孤立無援で行っているわけではないので、できるだけサポートし合える関係ができることによって、チームとしてのパフォーマンスが高まっていくという面があります。

 

夛田:自分が書いたコメントや気づきなどを公開するわけですが、そこにフィードバックをもらえたりすると、きっと嬉しいでしょうね。

 

松丘:そういうこともありますし、そこから新しい気づき、あるいは何か有益なアドバイスだとか、そういうものをもらえることもあります。

 

夛田:公開する側、記録する側の立場のメリットみたいなことを話しましたが、閲覧側のメンバーにも何かよいことはあるのでしょうか?

 

松丘:〇〇さんは今、こんなことで頑張っているといったことに刺激を受けたり、自分と同じようなことで悩んでいることに共感を持てたりする効果はあると思います。

 

夛田:1on1は他のメンバーが見ていない状況で行われていることがほとんどだと思いますが、その見ていない気づきを見ても、周りのメンバーが何かしら気づきは得られるということですね。

 

松丘:特にリモートワークなどで日頃、顔を合わせていない状況で、他の人がどういうことを考えたり感じたりしているのかを理解できることは、非常に重要だと思います。

 

ただ前提として、自分が気づいたことや悩んでいることをオープンにしてもよいと思えるような、いわゆる心理的安全性のある職場であることが必要です。

 

夛田:そうですね。それがないとなかなか公開しづらいかなと思います。

 

松丘:こんなことを書いたら何か悪く思われるのでは?とか、あるいはこいつダメな奴じゃないかと思われるかもしれないとか、そういう危険を感じるような状況ではやはりオープンにするのはためらわれるので、やはり心理的安全性の高いチームを作っていこうというようなことをみんなが意識しないと、そういうサポートネットワークは築きづらいですね。

 

夛田:そうですね。1on1の気付きの公開というのも一つの切り口として、組織活性化について、皆さんの職場で考えてみるきっかけになればいいなというふうに思いました。

 

1on1のデータ分析:現場への負荷を最小限にしながら1on1の浸透を促す

 

夛田: 実際に1on1を行っていく中での実施状況あるいは実施回数を人事に報告することは必要でしょうか?また、コーチングスキル等も必要になってくるのでしょうか?

 

松丘:報告させるとやらされ感や、義務的な仕事のように捉えられかねないので、報告させるというのはあまりよくはないですね。時々、アンケートをとって1on1をしていますか、というくらいであればまだしもと思いますが。

 

夛田:人事としては知りたいのではないかなと思いますが、確かに報告をさせるとなると義務感になってしまいますよね。回数や内容にもばらつきが出てくると思いますがいかがでしょうか?

 

松丘:そうですね。人事からすると1on1を導入したけれども本当にやっているのか?あるいは、あまり積極的ではない部署に対して、テコ入れをしていくためにも、現状どうなっているのか、ということがわからないとアクションを取りようがないですよね。

 

夛田:例えば、週報や月報のように報告してもらうなどというのはナンセンスかなと考えると、人事側から働きかけなくても共有できるようなツールがあると便利かなというふうに思って聞いていました。

 

松丘:いちばん簡単なのは、やはり1on1ツールですよね。クラウドのツールみたいなものを入れて、1on1があった度にそこになにか書き込んでいけば、それでもって実施しているかどうか、システム的に把握することが可能になります。報告させるというよりも、自然にデータが取れるような仕組みがあるというのが望ましいと思います。

 

さらに、1on1をやったかどうかのデータが取れれば、実施状況と効果の関係を分析することもできます。たとえば、エンゲージメントサーベイやパルスサーベイのデータと1on1の実施状況のデータを比較して、1on1に積極的なチームはエンゲージメントも高まっている、といったことがわかったら、1on1の意義がより伝わるのではないかと思います。

 

夛田:できるだけ現場に負荷をかけないで、データが取れたり、分析できたりする仕組み作りも1on1を浸透させる上で大事になってくるかなと感じました。

 

松丘:次に、コーチングスキルやカウンセリングスキルの必要性について質問があったかと思いますが、それらは当然、効果的です。1on1の場は、上司が自分の考えを一方的に伝えるのではなくて 相手に考えさせて、聞き出していく。そういうような場ですので、コーチングスキルというのはあったら効果的だと思います。

 

しかし、コーチングスキルがないと1on1はできないのかというと、それだといつまで経ってもできないことになりますので、最低限のトレーニングは必要だと思いますが、必ずしもスキルがないとできないんだ、とは考えないほうがよいと思います。

 

夛田:スキルありきというよりは、実践をどんどん積み重ねて行く方が1on1は自体は上手になる。慣れるイメージでしょうか?

 

松丘:ある程度慣れてきて、それからコーチングのスキルなどを身につけていくのは非常に効果的なのではないかと思いますね。

 

ただ、コーチングといいますと、相手にコーチする、自分はコーチ役ですと役割分担がされてしまうかもしれませんが、上司の方は必ずしもコーチ役だけに留まらないと思います。

 

自分自身もキャリアビジョンを描いて、それに向けてアクションを行うことが重要です。上司自身が実践者であることで、より効果的な1on1ができるようになるからです。単にコーチ役だけやればよい、とは考えない方がよいでしょう。

 

夛田:常に引っ張っているだけでなく、上司そのものも実践者であるということがすごく大事だなと感じました。

 

ご自身が実践者という立場で考えたことはありますでしょうか?ぜひこのあたり、もう一度振り返りをしてみていただければと思います。