エンゲージメントサーベイの選び方

更新日: 2024-09-24

人的資本経営の成果を示すメルクマールとして、従業員エンゲージメントが重視されています。また、上場企業においては、人的資本の情報開示項目として、従業員エンゲージメント指標を開示する企業数が増加しています。従業員エンゲージメントを経営指標として用いるためには、当然のことながらそれを測定する必要があります。そのために、エンゲージメントサーベイを活用する企業(官公庁、その他の組織を含む)が増加しています。

 

エンゲージメントサーベイを自社で開発する企業もあれば、外部の専門サービスを利用する企業もあります。いずれの場合であれ、エンゲージメントサーベイの結果が信用できるものでなければ、適切な経営判断に用いることはできません。では、どのような視点でエンゲージメントサーベイを選べばよいのでしょうか?本稿では、正しいエンゲージメントサーベイ選びのための5つの要件について解説したいと思います。

 

 

1.エンゲージメントを測定しているか?

 エンゲージメントサーベイと呼ばれるからには、エンゲージメント指標が測定されなければなりません。そんなことは当然と思われるかも知れませんが、以前は組織診断や従業員満足度調査として行ってきたサービスを、エンゲージメントサーベイと改名して提供されているケースも見受けられます。これらのサービスでは、エンゲージメント指標は測定されません。

 また、エンゲージメントを測定するサーベイにおいても、そのエンゲージメントの内容が何かを確認することが必要です。エンゲージメントは愛着や思い入れといった個々人の心理状態を表していますが、1990年にエンゲージメントの概念が提唱されて以来、大きく分けて、仕事におけるエンゲージメント(ワークエンゲージメント)と、組織に対するエンゲージメント(組織コミットメント)の2種類が存在してきました。「従業員エンゲージメント」にはこれらの2つの概念が含まれるため、双方ともに測定されることが求められます。  

 

 企業ごとに人材戦略は異なるため、注視すべき指標がそれぞれ異なっても構いません。各社の戦略に応じた指標を設定することはむしろ望ましいことですが、従業員エンゲージメントを重視すると方針を定めた場合には、満足度指標などではなく、エンゲージメント指標が測定されなければなりません。

 

 

2. 学術的な裏付けはあるか?  

 過去30年以上にわたって、国内外でエンゲージメントに関するたくさんの研究が行われてきました。今日、人的資本経営のキーファクターとしてエンゲージメントが重視されている背景には、長年の先行研究の積み重ねがあります。

 エンゲージメントサーベイを開発する際に、先行研究の結果をすべて取り込む必要はありませんが、重要な先行研究の成果を有効活用せずに、ゼロからサーベイを開発することは現実的ではありません。完全オリジナルのサーベイ開発に長い年数を費やすよりも、過去の成果(調査票など)を有効活用する方がはるかに効率的で間違いがありません。そのため、もし学術研究に基づかないサーベイがあったとすると、どうやって作ったのかを確認した方がよいでしょう。

 

 

3. 設問数が絞り込まれているか?  

 エンゲージメントサーベイに限らず、あらゆる調査の開発において、信頼性(調査の安定性)と妥当性(調査目的との適合性)が統計的に検証されていることは不可欠です。信頼性・妥当性の検証は最低限の基本ですが、それだけではなく、設問数を可能な限り減らすための統計的な検証が実施されていることが重要です。

 消費者向けのインターネット調査では、設問数が多くなるほど途中離脱が増えることが知られています。社内で行われるエンゲージメントサーベイにおいても、設問数が多くなるほど、回答率が低下するだけでなく、回答精度の低下を招いてしまいます。エンゲージメントサーベイの回答者は、自分自身の気持ちに向き合う必要があるため、設問数が多いと負担感を高め、判断力を鈍らせてしまうのです。  

 

 統計的な検証を何度も行うことで、そもそも不要な設問を取り除くだけでなく、設問間の重複や内部相関を排除し、設問数を絞り込むことができます。設問数の多いサーベイは、その処理を十分に行っていないと思われます。

 

 

4. 因果関係が把握できるか?  

 エンゲージメントサーベイはやって終わりではなく、次のサーベイに向けてエンゲージメントを高めていくアクションを実施することが求められます。そのためには、エンゲージメントの数値に影響を及ぼしている要因を把握することが必要になるため、一度のサーベイでエンゲージメントの数値とその要因の両方を把握できることが望まれます。

 エンゲージメントとその要因の因果関係がサーベイに組み込まれていたなら、要因となる因子をどれだけ高めれば、従業員エンゲージメントがどれだけ向上するかという予測シミュレーションも可能になります。それによって、次のサーベイにおけるエンゲージメントの目標値の設定と、その達成に向けたアクションプランの策定をセットで行うことができ、エンゲージメントを高めるために未来志向で取り組むことができるようになります。  

 

 因果関係を含まずに調査項目が一列に並んでいるようなサーベイでは、数値の悪い項目に目が行き、問題解決のための改善策が検討されるでしょう。しかし、それを改善するとどれくらいエンゲージメントが高まるかが定かではないため、取り組みに対する意欲は高まりにくいと言えます。

 

 

5. 結果数値に対する十分な解説があるか?  

 サーベイ結果を経営層や現場で読み込み、自分たちの組織の現状分析を行うことは重要です。しかし、数値データを渡されて、その値が何と比較して高い/低いと言えるのか、どれくらいの乖離があれば明らかな差があると言ってよいのか、といったことを統計の専門家ではない役員・社員が判断するのは容易ではありません。

 そのため、サーベイ結果の表やグラフに対して、一定のレベルまでは解説が提供され、経営層や現場のメンバーはそこから先を分析すればよいという状態にして、結果を共有することが求められます。データ分析の専門組織を持つ一部の大企業は社内で分析することも可能ですが、そのような専門チームが存在しない企業が大半であるため、サーベイを選ぶ際にはどの程度の解説が提供されるかを確認した方がよいでしょう。

 

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