コロナ後の従業員エンゲージメントを徹底解明 ~第2回全国調査からわかった従業員エンゲージメントが低い理由とコロナ後の変化~

更新日: 2024-05-07

昨年大きな反響を呼んだ、全国1万人を対象とした従業員エンゲージメント全国調査。2023年に引き続き、2024年も株式会社アジャイルHRと株式会社インテージが共同開発し、東京大学医学系研究科の川上憲人特任教授と共同研究を行った「A&Iエンゲージメント標準調査」を利用して、全国調査を実施しました。コロナの制約が外れたこの1年間の従業員エンゲージメントの変化は、どうなったのか?速報レポートをお届けします。(2024年のレポートはこちらよりダウンロードいただけます)

 

1.調査の目的

従業員エンゲージメントの国際調査において、日本はかならずと言ってよいほど最下位にランキングされます。国民性の違いによる影響もありますが、実際に個々の日本企業を調査すると、従業員エンゲージメントが高い企業もある一方で、低い企業も非常に多く、全体として日本の従業員エンゲージメントが低いことに疑いはありません。

問題は「なぜ日本の従業員エンゲージメントが低いのか」という点にあります。それを明らかにするには、国内における広範な調査データの分析が必要とされます。具体的には、以下の3つの仮説に基づく分析が有効です。

仮説①:構成要素の視点
 従業員エンゲージメントの構成要素の中に低いものがある。

仮説②:影響要因の視点
 従業員エンゲージメントにネガティブな影響を及ぼす何らかの要因がある。

仮説③:セグメントの視点
 従業員エンゲージメントの平均を下げる特定のセグメントが存在する。

前回の全国調査は2023年1月31日から2月6日にかけて実施しました。その時期は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した2023年5月以前のコロナ禍終盤期でした。今回の調査は5類移行後10ヵ月目の2024年2月5日から2月9日に実施したため、前回と今回の違いを分析することによって、コロナ後の従業員エンゲージメントの変化がわかります。

本調査は、日本の従業員エンゲージメントが低い理由と、コロナ後の変化の2点を明らかにすることを目的としています。

 

2.日本の従業員エンゲージメントが低い理由

①構成要素の視点

■会社への帰属意識が低い
従業員エンゲージメントは、以下の2つの概念を含んだ個人の心理状態を指します。

・ワークエンゲージメント:仕事を通じて得られるポジティブな心理状態
・組織コミットメント:所属する会社や組織への帰属意識や愛着心

本調査では4件法を採用しているため(4:そうだ、3:ややそうだ、2:ややちがう、1:ちがう)、肯定的回答と否定的回答の中間のスコアは2.5となりますが、回答者全員の平均値は以下のようになりました。

従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの平均値となります。ワークエンゲージメントの値は中間スコア(2.5)を0.18上回っていますが、組織コミットメントの値は中間スコアを下回っており、従業員エンゲージメントを引き下げる方向に作用していることがわかります。会社への帰属意識が高かった、かつての日本企業のイメージとは異なり、組織コミットメントがマイナス要因となっています。

②影響要因の視点

■フィードバックと学習機会が不足

従業員エンゲージメントに影響を及ぼす主な要因に、「仕事の資源」があります。資源とは燃料であり、エネルギー源であるため、資源のスコアは従業員エンゲージメントのスコアの高低に影響を及ぼします。 図1は本調査で測定している「仕事の資源」の全16項目の全国平均値を、スコアの高い順に並べたグラフです。

 

スコアがもっとも高い上位2つの資源は以下のとおりです。

・役割明確さ:自分の職務や責任が明確であること

・仕事の意義:自分の仕事に意味があると感じられること

日本企業はジョブ型ではなく職務や責任が明確ではないためにエンゲージメントが低いといった論調もあります。また仕事に意義を感じられないためエンゲージメントが高まらないといった論調を耳にすることもあります。しかし、実際には多くの回答者が、「役割明確さ」と「仕事の意義」を肯定的に捉えているため、調査結果からこれらの説は裏付けられません。

スコアがもっとも低い下位2つの資源は以下のとおりです。

・公正な人事評価:人事制度の結果に関して十分な説明がされていること

・キャリア形成:意欲向上やキャリア開発に役立つ教育機会が存在すること

これらは、職場におけるフィードバックと学習機会の不足を意味しています。どちらも個人の動機付けと成長に不可欠な要素であり、その資源不足が従業員エンゲージメントを抑制していると考えられます。 ③セグメントの視点 以下では、日本の従業員エンゲージメントを低下させているセグメントを探ります。

 

■年代:組織コミットメントが希薄な40歳代と50歳代

40歳代と50歳代の組織コミットメントの低さが目立っています(図2)。20歳代から30歳代、40歳代と年を重ねるにつれて、会社への愛着は低下しています。 一方で、60歳代以上の従業員エンゲージメントはすべての年代の中でもっとも高くなっています。シニア層のモチベーションを懸念する声がしばしば聞かれますが、60歳代以上に関しては、元気に働くシニアの姿がイメージされます。  

 

■職種:上層部と現場の体感温度に大きな差、派遣社員の低い従業員エンゲージメント

会社員に関しては、役職が高まるにつれて従業員エンゲージメントが高まる傾向にあり、一般社員と役員との間には大きな差があります(図3)。上層部と現場の体感温度が異なっていることが推測されます。 すべての職種のうち、派遣社員の従業員エンゲージメント低さが目立っています。派遣社員という特性により、特に組織コミットメントのスコアが低く現れています。

■業種:業種によって差が大きい

業種によって従業員エンゲージメントに大きな差があります(図4)。従業員エンゲージメントがもっとも高い業種は、「医療、福祉」、次いで「教育、学習支援業」であり、もっとも低い業種は「製造業」、次いで「運輸業、郵便業」となっています。 業種の特性によって、仕事の資源の豊富さがそもそも異なることが要因と考えられます(例えば、「医療、福祉」や「教育、学習支援業」は、「仕事の意義」を実感する機会が多い、など)。

 

■従業員規模:50人の壁が存在?

50人未満の小規模会社の従業員エンゲージメントがもっとも高い値を示していますが、50~99人になると低下しています(図5)。特に50~99人の組織コミットメントの低下幅が大きく、100人を超えて人数が増えるにつれ、緩やかに上昇していく傾向が見られます。 50人を超えた会社では、マネジャーの量的・質的不足が共通の課題となる(いわゆる「50人の壁」)と言われますが、その影響による可能性が推測されます。

3.コロナ後の従業員エンゲージメントの変化

①全体的傾向

昨年の調査結果と比較して、従業員エンゲージメントには若干の上昇が見られます。

             前回   今回(増減)

 従業員エンゲージメント  2.52 → 2.59(+0.07)  

 ワークエンゲージメント   2.64 → 2.68(+0.05)  

 組織コミットメント     2.41 → 2.49(+0.09)

(注:増減には四捨五入の影響あり)

本調査では、合計25の小分類項目を測定していますが、前回よりもスコアを下げている項目は見られませんでした。以下ではスコアの上昇に対して、特に影響したと考えられる要因を記述します。

 

②セグメント別の要因

■年代:30歳代の改善の影響が大きい

50歳代のワークエンゲージメントと20歳代以下の組織コミットメントを除いて、全体的に従業員エンゲージメントが改善していますが、特に30歳代の上昇幅が突出しています(図6)。

前回調査では、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの双方ともに30歳代が最下位でしたが、30歳代の「仕事の資源」の内訳を前回と今回で比較すると以下のとおりです。

           前回   今回(増減)

 仕事の資源      2.56 → 2.69(+0.13)   

 仕事レベル      2.76 → 2.93(+0.17)

 職場レベル      2.61 → 2.66(+0.05)   

 会社レベル      2.31 → 2.47(+0.17)

(注:増減には四捨五入の影響あり)

 

コロナ禍が終息して、30歳代の中堅社員への仕事そのものからの動機付け(仕事レベル)と会社の施策などによる動機付け(会社レベル)が、よりポジティブに働くようになったと推測されます。

■年代:20歳代以下の継続勤務意欲は低下

年代別の変化で特に気になるのは、20歳代以下の継続勤務意欲の低下です(図7)。他の年代のスコアはすべて上昇していますが、20歳代以下のみ顕著な低下が見られます。コロナ禍を経て、今の会社で将来続けることに対する20歳代以下の意識が大きく変化していると考えられます。

■業種:大半の業種で従業員エンゲージメントは上昇

ワークエンゲージメントに関しては16業種中11業種、組織コミットメントに関しては13業種でスコアの改善が見られます(図8)。従業員エンゲージメントの上昇幅がもっとも大きな業種は公務員でした。

③リモートワークと仕事の生産性による影響

■リモートワークを減らし過ぎると従業員エンゲージメントは低下

コロナ後、リモートワーク中心から出社中心に切り替えた会社が少なくなかったため、その影響を分析しました。

リモートワークの実施頻度が「コロナ禍と変わらない」と回答した人は69.9%でしたが、その層のワークエンゲージメント(2.67)と組織コミットメント(2.49)は、今回調査の全体平均とほぼ同水準でした(図9)。つまり、リモートワークの実施頻度がコロナ禍と同じでも、従業員エンゲージメントは上昇したことがわかります。

ただし、リモートワークの実施頻度が「コロナ禍よりも増えた」「コロナ禍よりもやや増えた」と回答した層の従業員エンゲージメントは全体平均よりも高くなっています。

「コロナ禍よりやや減った」と回答した層の従業員エンゲージメントは全体平均よりも若干高い一方で、「コロナ禍よりも減った」と回答した層は全体平均よりも低いという結果が見られます。オフィス出社を少し増やすことは従業員エンゲージメントにプラスに働くものの、大幅に増やすことはマイナスに作用していることがわかります。

■ 仕事の生産性が向上した層の従業員エンゲージメントは高い

コロナ後における仕事の生産性の変化と従業員エンゲージメントの関係を分析しました。

仕事の生産性が「コロナ禍と変わらない」と回答した人は72.5%でしたが、その層のワークエンゲージメント(2.68)と組織コミットメント(2.49)は、今回調査の全体平均とほぼ同水準でした(図10)。つまり、仕事の生産性がコロナ禍と同じでも、従業員エンゲージメントは上昇したことがわかります。

ただし、仕事の生産性が「コロナ禍よりも上った」「コロナ禍よりもやや上った」と回答した層の従業員エンゲージメントは、全体平均よりも顕著に高くなっています。逆に、「コロナ禍よりもやや下がった」「コロナ禍よりも下がった」と回答した層は、全体平均よりも顕著に低くなっています。

働き方改革やDXなどによって仕事の生産性を高められる会社ほど、従業員エンゲージメントを向上できる可能性があると考えられます。

本全国調査のレポートはこちらからダウンロードできます↓

https://a-i-engagement.com/inquire/?Inquire01#Inquire01

 

■執筆者 松丘啓司(まつおか・けいじ)

株式会社アジャイルHR代表取締役社長 東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し代表取締役に就任。2018年に株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任 著書「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。2023年に「エンゲージメントを高める会社~人的資本経営におけるパフォーマンスマネジメント」を上梓

 

■株式会社アジャイルHR

株式会社アジャイルHRは、新時代のパフォーマンスマネジメントとキャリアマネジメントの実現を支援する会社です。OKRと1on1をサポートするクラウドサービス「WAKUAS」を中軸にOKR・1on1・キャリア開発などに関する研修サービス、360度フィードバック・エンゲージメントサーベイの導入支援、人事制度改革のコンサルティングサービスを提供しています。

 

■A&Iエンゲージメント標準調査

人事コンサルティングの株式会社アジャイルHRと、データテクノロジーの株式会社インテージが共同開発し、東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授による社会連携講座「デジタルメンタルヘルス講座」における共同研究を実施した最新のエンゲージメントサーベイ。統計的・学術的な裏付けのあるデータを用い、従業員エンゲージメントを科学的に測定すると同時に、エンゲージメントに影響を及ぼす要因までを測ることが可能。またサーベイ実施後の結果分析を人事とデータ分析のプロフェッショナルである両社が行うことも特徴。

▼詳細はこちらをご覧ください: https://a-i-engagement.com/

 

■お問い合わせ先

株式会社アジャイルHR

〒107-0062 東京都港区南青山5-4-6-503

電話:03-6452-6115

URL : https://agilehr.co.jp/