【連載】OKR基礎講座②
1人ひとりが自分のOKRを設定するだけではOKRが完成したことにはなりません。「OKRを立てる」という行為は、会社(組織)全体のOKRツリーを構築することでもあるのです。全員参加で1つの大きなOKRツリーを作るところにOKRならではの意義があります。
以下ではOKRツリーを構築する際の手順と考慮点について解説します。
3.OKRの考え方(続き)
② アラインメント
アラインメントには「整列」といった意味があります。トップ層のOKR、さらにはその上にある会社のパーパスやビジョンの実現に向けて、全員のOKRが整列した状態をイメージしていただければよいと思います。
このようなOKRツリーが構築されることによって、パーパスやビジョンの実現に向けた全社のベクトル合わせが可能になります。
◆OKRツリー構築の手順
OKRは自分が「やりたい」と思える目標ですが、会社の業務における目標であるため、会社や組織に貢献する目標でなければなりません。そのため、個人のOKRはより上位のOKRの達成に貢献するものであることが求められます。
MBOでは目標は上から下に配分されるのが一般的でしたが、OKRでは上位のOKRに貢献するために何を目標にしたいかというように、下から上に関連付ける方法が用いられます。その意味でOKRは「ボトムアップ」と言えます。
ただし、上位層のOKRが決まっていないとどのOKRに貢献するかを決められないため、いちばんはじめにトップ層のOKRが設定される必要があります。それが、OKRは「トップダウンとボトムアップの融合」であると言われる意味合いです。
これまで目標が上から与えられるのが当たり前だった状況で、突然、「自分のやりたい目標を考えてください」と言われても、すぐには決められないことが少なくないでしょう。何もない状況でOKRを考えることは難しいかも知れませんが、「トップダウンとボトムアップの融合」によって、以下のような2段階のプロセスを経ることで自分のOKRについて考えやすくなります。
- 上位層のどのOKRに貢献したいかを決める
- そのOKRに貢献するために、自分は何を目標にしたいかを考える
◆OKRツリー構築の考慮点
以下ではOKRツリーを構築する際の考慮点について2つ解説します。
「上位層のOKR全体に関連付けるか、特定のKRに関連付けるか」
ある人がOKRを立てる際、上位層のあるOKR全体に貢献するOKRを考えるのか、それともそのOKRの特定のKRに貢献するOKRを考えるのか、どちらが望ましいでしょうか?どちらの方法でも運用可能ですが、人によってやり方がバラバラになってしまうとOKRツリーが複雑になってしまうため、会社としてのルールを事前に決めておく必要があります。
しかし、どちらの方法がより望ましいかというと、上位層のOKR全体ではなく特定のKRに関連付けたOKRを設定する方法を推奨します。それによって、ある人のOKRが何に貢献するものであるかがより明確になります。また、OKR全体に関連付ける方法だと、そのOKRのあるKRの達成に貢献する下位のOKRが設定されていなくても気づきにくいという問題も生じます。
「OKRツリーの階層は組織階層に対応させるか」
たとえば、「社長‐役員‐部長‐課長‐担当者」という組織階層があった場合、それぞれの階層でOKRを設定するとOKRツリーは5階層になります。OKRツリーの階層が深すぎると、担当者レベルまで下りていった際にはタスクレベルのような些末な目標になってしまう恐れがあります。
またOKRには、個人が別々に達成を目指すよりもチームで達成を目指すことによって、チーム力が引き出されるという効果があります。現実的に、たとえばトップ層のOKRは社長だけで担うのではなく、社長と役員の経営層チームで担うものになるでしょう。そのため、OKRには「共有」という考え方が必要になります。OKRの共有とは、1つのOKRを複数人で担う(複数人がOKRのオーナーとなる)ことです。
経営層以外でも、たとえばある部に課が複数ある場合、ある課長は自分の課に関わるOKRしか担当しないが、部長はすべてのOKRのオーナーになるといった運用も想定されるでしょう。このようにOKRの階層と組織階層は1対1で対応させる必要がありません。
これらの考慮点を踏まえたOKRの運用を可能にするために、OKR支援システムは「Oを上位のKRに関連付ける機能」や「1つのOKRを複数人で共有する機能」をサポートしている必要があります。
3.OKRの考え方(続き)
③ アンビシャス
OKRの基本的考え方の1つに「アンビシャス(野心的)」があります。何のために高い目標を設定するのか、どれくらい高い目標である必要があるか、といった点について、以下に解説します。
OKRにおいては、簡単には達成できない野心的な目標を立てることが推奨されます。ただし、「OKR基礎講座①」でも述べたように、OKRは主体的に設定したゴール、つまり「やりたい目標」であることが前提です。MBOの個人目標をもっと高めることを求めているのではけっしてありません。
◆高い目標を設定する理由
OKRにおいて高い目標の設定を推奨することには、以下のような理由があります。
1) 大きな成果を生み出す
当然ながら、高い目標を設定しただけで、成果も自動的に大きくなるわけではありませんが、「やりたい」と願ってゴール設定をすることによって、自発的な努力が引き出されることが知られています(逆に、「やりなさい」と上から目標を与えられた場合には、その目標を達成するのに最低限の努力しか費やされない)。
また、高い目標を達成するためには、自分だけの努力ではなく社内外の協力を得たり、これまでにはない発想が求められたりすることも含めて、より大きな成果が生み出される可能性が高められます。
2) 成長を促す
野心的な高い目標を達成しようとすると、これまでの業務の延長線上ではない、未知の領域へのチャレンジが求められます。同じような経験を繰り返しても得られる学びは限られていますが、未知の経験からの学びは成長のスピードを促進します。
3) 視座を高める
大きな成果を念頭において目標を立てることによって、視座が高められます。従業員全員が、毎年数パーセントの売上増でよいと思っている会社では数パーセントの成長しかできなくなりますが、全員が高い視座を持つことができれば会社を飛躍させられる可能性が高まります。
◆野心的な目標に関する疑問
「アンビシャス」というOKRの考え方に関して、次のような疑問がしばしばあげられます。
- どの程度の高さが適当か
グーグルでは「OKRのスィートスポットは60%~70%」と言われています。つまり、会心の一打が出た時に、目標の60%~70%程度の達成率になるくらいのレベル感がよいということです。言い方を換えると、これまでのストレッチ目標の1.5倍くらいを目途にするのがよいでしょう。
それ以上になるとゴールまでの距離が遠すぎて、息切れしてしまう恐れがあります。ストレッチ目標の1.5倍であれば、足りない50パーセントを積み上げるためのアイデアを考えることができるレベルです。
- 業務や職種によっては野心的な目標を立てられない
たとえば、事務処理を正確に行うことが求められる業務に携わっているメンバーは、野心的な目標を立てようがない、といった声がしばしば聞かれます。しかし、業務内容を大きく変えることはできなくても、仕事の意義を定義し直すことは可能です(それを「ジョブクラフティング」と呼びます)。例えば、自分の仕事を「データを集計すること」と捉えるのではなく、「顧客が求める情報をタイムリーに提供すること」と定義し直せば、目標の内容も違ってくるでしょう。
そうは言っても、メンバーの中には最速で成長したい人もいれば、自分のペースでじっくりと成長したいスローキャリア志向の人もいるでしょう。OKRは主体性が大前提になるため、本人のキャリア志向が反映されるのは当然です。ただし、1on1の場で上司と将来キャリアについてよく話し合って、共有されていることが必要です。
- 達成度の基準がバラバラだと評価ができなくなるのではないか
「OKRの達成度を人事評価に用いない」というのがOKRの大原則です。それをやってしまうと、達成できそうな目標ばかりが立てられたり、高い目標に挑戦した人が評価されなかったりしてしまうからです。
OKRを導入する際の人事評価のあり方については詳しく解説しませんが、ここであらためて強調しておきたいのは、OKRは組織マネジメントの方法であって評価制度ではない、ということです。両者はいったん切り離して考えられる必要があります。