エンゲージメントを高めるために

更新日: 2023-03-30

従業員エンゲージメントを高めるためには、全社的なアクションと現場におけるアクションの両方が求められます。エンゲージメントサーベイを実施したら、まず全社レベルで検討し、その結果を踏まえて方向性を示した上で、現場レベルでの分析とアクションの検討を実施します。

 

エンゲージメントサーベイを記名で実施して、エンゲージメントの低い個人(あるいは高い個人)に対応する会社もありますが、記名にすることで素直な回答が得られず信頼性が低下する恐れがあるため、無記名での実施が一般的です。

 

1)会社としての変革施策

 会社として打つべき変革施策は、パフォーマンスマネジメントとキャリアマネジメントの施策の導入と改善施策が中心となります(図4)。

 

  • 仕事レベルの動機付けが不足している場合

 メンバーが仕事において楽しみや意義を感じられるように、1on1を通じて継続的に支援が提供される環境づくりが大切です。OKRを組み合わせることによって、自律的な仕事への取り組みが促進されます。また、キャリア研修によって、自分自身で仕事の意味付けを確認できるようにするのも効果的でしょう。

 

  • 職場レベルの動機付けが不足している場合

 1on1を通じてリーダーと気兼ねなく話すことができる心理的安全性が醸成され、リーダーに承認される環境が必要です。360度フィードバックによって周囲から豊富なフィードバックが得られることも動機付けとなるでしょう。

 

  • 会社レベルの動機付けが不足している場合

 会社レベルの動機付けが不足している場合は、すべての施策が対象となり得ます。MBOによる上意下達の管理や、人事評価による強制的なレイティングがスコアを下げる原因になっている可能性もあるため、人事制度の見直しも必要かもしれません。

 

  • 価値観・ビジョンの共有が不足している場合

 会社のパーパス・ビジョン・バリューの明確化と浸透のための施策(OKRや360度フィードバック)の検討が必要です。キャリア研修において、会社のビジョンと個人のビジョンを重ね合わせて考えることも、会社の価値観・ビジョンを「自分事」として捉える上で効果的でしょう。

 

 すでにこれらの変革施策が導入されている場合は、各施策が狙いどおりに機能しているかどうかの点検も必要です。例えば、エンゲージメントサーベイに合わせて、「1on1の役立ち度」を設問に加えることで、「1on1が役立っていると回答する人が少ない部署はエンゲージメントも低い」(あるいはその逆)といった分析が可能になります。

 

2)現場におけるアクション

 会社レベルの動機付けの不足は会社の問題であって現場の問題ではないと考えられがちですが、必ずしももそうではありません。全社レベルで施策が実施されていても、現場による運用の如何によってエンゲージメントサーベイのスコアに差が出ます。そのため、エンゲージメントサーベイの結果を各部署に戻して、現場で話し合う機会を持つことが効果的です。

 

 これは「サーベイフィードバック」と呼ばれる組織開発の手法に当たります。サーベイ結果をもとにチームで対話を行い、アクションについて話し合うことによって、自分たちでチームを良くしようとする機運を高めます。

 

その際のミーティングの進め方については、事務局で簡単な手引きを作成して配布しておくことが望まれます。フィードバックミーティングの進め方については、「サーベイフィードバック入門」*7などを参考にされるとよいでしょう。

 

 また、現場における「仕事の資源」に関する設問の多くは、リーダーのマネジメント行動のあり方に依存しています。このことから、エンゲージメントサーベイの結果は、リーダーに対するフィードバックとも言えるのです。360度フィードバックと同様に、リーダーはエンゲージメントサーベイのフィードバックから、どのような行動を起こすかを考える必要があります。その行動には、強みをさらに活かす行動と、課題を改善する行動のどちらも含まれます。

 

エンゲージメントサーベイの結果と照らし合わせて、リーダーが自身の行動変革について考える際、以下の10項目が参考になります。これらは、エンゲージメントを高める上で重要となるリーダーの行動(マネジメントコンピテンシー)に関して、株式会社アジャイルHRと東京大学の共同研究*8によって開発された調査票とアドバイスコメント集に基づいています。

 

<エンゲージメントを高めるマネジメントコンピテンシーとアクション例>

  • 理念と目標の浸透

 組織の使命、方針、価値観をチームの目標に反映させて、メンバーに浸透させる行動

(例)チームに目標を説明する時には、組織のパーパスやビジョンとのつながりをわかりやすく説明する。

 

  • 計画的なチーム運営

 メンバーに目標を伝え、チームとしての計画を立て、状況を管理する行動

(例)定期的なミーティングの中では、チームメンバーからの報告や相談を受けた後に、これまでの経過や今後の見通しに対してフィードバックする。

 

  • 迅速な問題解決

 問題が起きたらすぐに対応することで迅速に処理することを心掛ける行動

(例)このチームでは、問題に気づいた時には早く相談や報告をすることを重視していると明言する。

 

  • 心理的安全性の醸成

 メンバーに言いたいことを言える雰囲気をつくり、意見を促し、傾聴することを心掛ける行動

(例)チームメンバーが意見やアイデアを出した時には、どんな内容であったとしても、発言したこと自体に対して感謝の気持ちを表現する。

 

  • コンフリクトマネジメント

 メンバーどうしが助け合う雰囲気を創り、対立やトラブルが起こった場合に対応する行動

(例)チーム内で人間関係の問題が起きた時には、自分が責任を持って対応することを明言する。

 

  • 公正な態度(多様性の尊重)

 どのメンバーも同じように大切に扱い、陰口を言ったりせず、誠実に対応する行動

(例)チームメンバーに対応する時には、他のメンバーに対しても同様の対応を取るかを自分の中で確認して、公正性を保つことを心掛ける。

 

  • 親しみやすい態度

 職場で笑顔でいたり、笑顔で挨拶したりすることを心掛ける行動

(例)メンバーが話しかけてきたり、電話やオンライン会議などで話す機会がある時には、にこやかに対応する。

 

  • 積極的コミュニケーション

 日常的にメンバーに声をかけ、積極的に会話をするよう心掛ける行動

(例)チームメンバーの行動を日常的に観察して、良い点も改善点もタイムリーにフィードバックする。

 

  • 組織の資源の活用

 必要な場合には、他の管理職や人事などに相談して、助言を求める行動

(例)チームメンバーが部署外の支援を必要としている時には、積極的に間を取り持ったり仲介したりして支援する。

 

  • ワークライフバランス支援

 メンバーの仕事外の生活にも関心を持ち、チームが仕事と個人生活のバランスをとれるように配慮する行動

(例)チームメンバーが仕事のやり方や手順を決められるなど、裁量度を高められる体制を整えることで、メンバーのワークライフバランスを支援する。

 

【参考文献】

*7 中原淳著、「サーベイフィードバック入門-「データと対話」で職場を変える技術 これからの組織開発の教科書」PHP研究所、2020年

*8 株式会社アジャイルHRと国立大学法人東京大学大学院医学系研究科川上憲人教授の研究室(精神保健学分野)による共同研究 「オンライン1on1ツールを用いたマネジャーの行動促進による部下のエンゲイジメント向上機能に関する共同研究(1)エンゲイジメント向上のためのマネジメントコンピテンシー尺度の開発」