【第3回】 全国1万人エンゲージメント調査結果レポート

更新日: 2025-04-24

日本の従業員エンゲージメントは昨年よりも低下 

~人材投資とDXは従業員エンゲージメントに対してポジティブな影響~

 

 株式会社アジャイルHRと株式会社インテージが共同開発し、東京大学と共同研究を行った「A&Iエンゲージメント標準調査」の全国調査を実施しました。2023年、2024年に続き、今年が第3回となります。その結果からわかった、日本における従業員エンゲージメントの実態についてレポートします。

 

1.調査の目的

 2025年の全国調査は以下の3つの目的で実施しました。

 ①世界的にも低いと言われる日本の従業員エンゲージメントに関して、過去2年と同様にその要因を分析すること

 ②昨年と今年を比較した従業員エンゲージメントの変化について分析すること

 ③人材投資、DX、リモートワーク、リスキリングなどの取り組みと従業員エンゲージメントの関係について分析すること

 

調査結果レポートの詳細はこちらからダウンロードできます。

https://a-i-engagement.com/inquire/?Inquire01#Inquire01

 

2.日本の従業員エンゲージメントが低い理由

■会社に対する思い入れや愛着心が低い

 従業員エンゲージメントは、以下の2つの概念を含んだ個人の心理状態を指します。

 ①ワークエンゲージメント:仕事を通じて得られるポジティブな心理状態

 ②組織コミットメント:所属する会社や組織に対する思い入れや愛着心

 本調査では4件法を採用しているため(4:そうだ、3:ややそうだ、2:ややちがう、1:ちがう)、肯定的回答と否定的回答の中間スコアは2.5となります。今回の全国調査における平均値は以下のようになりました(従業員エンゲージメントの値は、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの平均)。

         従業員エンゲージメント        2.54

       ワークエンゲージメント      2.64

     組織コミットメント             2.45

   ワークエンゲージメントの値は中間スコア(2.5)を0.14上回っていますが、組織コミットメントの値は中間スコアを0.05下回っており、組織コミットメントの低さが従業員エンゲージメントを引き下げる要因となっています。

 

■仕事から活力を得られていない

   ワークエンゲージメントは活力、熱意、没頭の3要素によって構成されていますが、それぞれのスコアは以下のようになりました。

         ワークエンゲージメント         2.64

               活力                              2.47

               熱意                              2.78

               没頭                              2.66

   活力とは、仕事中のエネルギーレベルや心理的な回復力が高い状態を表していますが、その活力の低さがワークエンゲージメントを引き下げる要因となっています。

 

■職場運営(マネジメント)の問題が大きい

 「A&Iエンゲージメント標準調査」は、従業員エンゲージメントとその構成要素だけではなく、従業員エンゲージメントに対して影響を及ぼす要因(「仕事の資源」と「価値観・ビジョンの共有」)、および従業員エンゲージメントが影響を及ぼす結果(アウトカム)まで含めた全体の因果関係を測定しています。

 本年の調査結果の全体像は以下のようになりました。

図1:全体傾向

  従業員エンゲージメントに影響を及ぼす要因のスコアは以下のとおりです。

  仕事の資源                        2.61

      仕事レベル                    2.89

      職場レベル                    2.58

     会社レベル                    2.35

 価値観・ビジョンの共有        2.53

  仕事の資源とは、従業員エンゲージメントに対するエネルギー源を意味します。仕事レベルは携わっている仕事そのもの、職場レベルは職場の雰囲気や関係性がどの程度、従業員エンゲージメントに対してプラスに働いているかを表しています。

  会社レベルは、会社の制度や施策(評価制度など)を起点としますが、職場における運用状況に大きく依存するため、会社レベルのスコアが低い原因の多くは職場運営(上司のマネジメント)の問題と言えます。

 

■フィードバックと学習機会が不足

  図2は仕事の資源の16の小項目における全国平均値を、スコアの高い順に並べたものです。

図2:仕事の資源の小項目スコア(降順)

  スコアがもっとも高い上位2つの資源は以下のとおりです。

 ・役割明確さ:自分の職務や責任が明確であること

 ・仕事の意義:自分の仕事には意味があると感じられること

   平均的な日本人は、自分の役割は明確であり、自分の仕事には意義があると感じています。

  逆に、スコアがもっとも低い下位2つの資源は以下のとおりです。

 ・公正な人事評価:人事制度の結果に関して十分な説明がされていること

 ・キャリア形成:意欲向上やキャリア開発に役立つ教育機会が存在すること

  これらは、職場におけるフィードバックと学習機会の不足を意味しています。どちらも個人の動機付けと成長にとって不可欠な要素であり、その資源不足がエンゲージメントを抑制していると考えられます。

 

■年代:組織コミットメントが希薄な30歳代~50歳代

  図3は、年代別のワークエンゲージメントと組織コミットメントの全国平均値を表しています。

図3:年代別エンゲージメント

  30歳代で組織コミットメントは大きく低下し、その後、50歳代まで低空飛行を続けています。30歳代~50歳代の組織コミットメントの低さが従業員エンゲージメントの全国平均値を引き下げる要因となっています。

  一方で、60歳代以上のワークエンゲージメントはすべての年代の中でもっとも高くなっています。60歳代以上に関しては、元気に働くシニアの姿がイメージされます。

 

■役職・雇用形態:上層部と現場の体感温度に大きな差、派遣社員の低い組織コミットメント

  図4は、役職別・雇用形態別のワークエンゲージメントと組織コミットメントの全国平均値を表しています。

図4:役職別・雇用形態別エンゲージメント

 

   正規雇用に関しては、役職が高まるにつれて従業員エンゲージメントが高まる傾向にあり、一般社員と役員との間には大きな差があります。上層部と現場の体感温度が異なっていることが推測されます。

  非正規雇用のうち、派遣社員の組織コミットメントの低さが顕著です。

 

■業種:業種によって差が大きい

  図5は、業種別のワークエンゲージメントと組織コミットメントの全国平均値を表しています。

図5:業種別エンゲージメント

  業種によって従業員エンゲージメントに大きな差があります。ワークエンゲージメントがもっとも高い業種は「教育、学習支援業」、もっとも低い業種は「製造業」となっています。組織コミットメントがもっとも高い業種は「学術研究、専門・技術サービス業」、もっとも低い業種は「情報通信業」でした。

  仕事の資源の豊富さが、業種の特性によって異なっていることが原因と考えられます。

 

■従業員規模:50人の壁が存在?

  図6は、従業員規模別のワークエンゲージメントと組織コミットメントの全国平均値を表しています。

図6:従業員規模別エンゲージメント

  50人未満の小規模会社のワークエンゲージメントと組織コミットメントがもっとも高い値を示していますが、50~99人になると低下しています。特に50~99人の組織コミットメントの低下幅が大きく、100人を超えて人数が増えるにつれ、緩やかに上昇していく傾向が見られます。

  50人を超えた会社では、マネジャーの量的・質的不足が共通の課題となること(いわゆる「50人の壁」)が指摘されていますが、その影響による可能性が推測されます。

 

3.従業員エンゲージメントの経年変化

■従業員エンゲージメントは昨年よりも低下

  図7は過去3年間のエンゲージメント(全国平均値)の変化を表しています。

図7:3年間の変化

 

・2023年の調査は2023年1月31日~2月6日(コロナ5類移行の3ヵ月前)に実施

・2024年の調査は2024年2月5日~2月9日(コロナ5類移行の9か月後)に実施

・2025年の調査は2025年3月10日~3月12日に実施

  コロナ禍を終えた昨年はスコアの改善が見られましたが、今年はスコアが低下しています。

 

■会社レベルの資源がもっとも低下

 昨年と比較した仕事の資源の変化は以下のとおりです。

                                                  前回       今回(増減)

     仕事の資源                          2.65 → 2.61(-0.05)

        仕事レベル                     2.91 → 2.89(-0.02)

        職場レベル                     2.64 → 2.58(-0.05)

        会社レベル                     2.41 → 2.35(-0.07)

                               (注:増減には四捨五入の影響あり)

 

 仕事の資源の構成要素はどれも低下していますが、会社レベルの低下がもっとも大きく、従業員エンゲージメントのスコアに影響を及ぼしていると考えられます。

 

■30歳代の組織コミットメントの低下が大きい

  図8は年代別エンゲージメントの前回比較を表しています。

図8:年代別前回比較

 30歳代と60歳以上の落ち込みが大きく、特に30歳代の組織コミットメントの低下が顕著です。30歳代の従業員エンゲージメントは個社における調査でも低く現れることが少なくありません。その原因は一つに特定できませんが、上と下の板挟みになることによる負担感や、ライフイベントが重なって不安を抱きやすい年代であることが要因ではないかといった意見も聞かれます。

 

■上がった業種と下がった業種が混在

  図9は、業種別エンゲージメントの前回比較を表しています。

図9:業種別前回比較

 

 「学術研究、専門・技術サービス業」など大きくスコアを上げた業種と、「医療、福祉」など大きくスコア下げた業種が混在しています。人手不足など、業種特有の要因が影響していると推測されますが、上がった業種と下がった業種を合算するとトータルでは低下したと見られます。

 

4.人材投資、DX、リモートワーク、リスキリングとの関係

■人材投資に積極的な会社ほど従業員エンゲージメントが高い

   図10は、「私の働いている会社の経営陣は、人材投資(教育や福利厚生の充実、職場環境の整備など)に対して積極的に関与している」への回答別の従業員エンゲージメントを表しています。

図10:人材投資と従業員エンゲージメントの関係

質問:「私の働いている会社の経営陣は、人材投資(教育や福利厚生の充実、職場環境の整備など)に対して積極的に関与している」

   経営陣が人材投資に積極的に関与していると思われている会社ほど、従業員エンゲージメントは高い傾向が見られます。

 

■DXの効果が感じられている会社ほど従業員エンゲージメントが高い

   図11は、「私の働いている会社では、ITやデジタル技術を使った取り組みを進めたことで、便利になったり、働きやすくなるなどの変化がある」への回答別の従業員エンゲージメントを表しています。

図11:DXと従業員エンゲージメントの関係

質問:「私の働いている会社では、ITやデジタル技術を使った取り組みを進めたことで、便利になったり、働きやすくなるなどの変化がある」

DXによる効果が感じられている会社ほど、従業員エンゲージメントは高い傾向が見られます。

 

■フル出社の従業員エンゲージメントがもっとも低い

   図12は、リモートワークの頻度別の従業員エンゲージメントを表しています。

図12:勤務形態別の従業員エンゲージメント

 

  リモートワークとオフィス出社が同じくらいの勤務形態の従業員エンゲージメントがもっとも高く、フル出社がもっとも低くなっています。

 

■リモート勤務では職場レベルと会社レベルの資源が不足

   図13は、勤務形態別の仕事の資源を表しています。

図13:勤務形態別の仕事の資源

 

  テレワーク(フルリモート)の仕事レベルの資源はもっとも高い一方で、職場レベルはもっとも低く、会社レベルも低い傾向にあります。リモート勤務では職場レベルと会社レベルの資源が不足する状況が顕著に見られます。

 

■リスキリングにはエンゲージメント向上が不可欠

   図14は、「私は、技術やビジネスモデルの変化に対応するために新しい知識やスキルを学びたいと思う」という質問への回答分布を、ワークエンゲージメントのスコア別に表したものです。

図14:リスキリングへの意欲のワークエンゲージメント別分布

質問:「私は、技術やビジネスモデルの変化に対応するために新しい知識やスキルを学びたいと思う」

   ワークエンゲージメントが高い層ほど、リスキリングへの意欲も高い傾向が見られます。企業がリスキリングを推進する際には、エンゲージメント向上策が不可欠であると考えられます。

本全国調査の詳細レポートはこちらからダウンロードできます

https://a-i-engagement.com/inquire/?Inquire01#Inquire01

 

■執筆者

松丘啓司(まつおか・けいじ)

株式会社アジャイルHR代表取締役社長

東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し代表取締役に就任。2018年に株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任
著書「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。2023年に「エンゲージメントを高める会社~人的資本経営におけるパフォーマンスマネジメント」を上梓

 

■株式会社アジャイルHR

株式会社アジャイルHRは、新時代のパフォーマンスマネジメントとキャリアマネジメントの実現を支援する会社です。「A&Iエンゲージメント標準調査」、OKRと1on1をサポートするクラウドサービス「WAKUAS」、OKR・1on1・キャリア開発等に関する研修サービス、360度フィードバックの導入支援、人事制度改革のコンサルティングサービスを提供しています。

■A&Iエンゲージメント標準調査

人事コンサルティングの株式会社アジャイルHRと、データテクノロジーの株式会社インテージが共同開発し、東京大学大学院医学系研究科の社会連携講座「デジタルメンタルヘルス講座」における共同研究を実施した最新のエンゲージメントサーベイ。統計的・学術的な裏付けのあるデータを用い、従業員エンゲージメントを科学的に測定すると同時に、エンゲージメントに影響を及ぼす要因までを測ることが可能。またサーベイ実施後のアクションプラン策定サービスも提供

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■お問い合わせ先

株式会社アジャイルHR

電話:03-6452-6115

URL : https://agilehr.co.jp/